病を得た患者が疾患を認識し、医療とつながり治療を受ける。患者を軸にした医療経過はペイシェントジャーニーと呼ばれ、患者中心の医療を実現するために必須の概念として近年注目されている。皮膚疾患患者における初診から診断までの医療経過に関する多国籍横断研究を、欧州皮膚科学・性病学会(EADV)の「皮膚疾患の負担(Burden of Skin Diseases)プロジェクト」チームが実施し、その結果をJ Eur Acad Dermatol Venereol (2023; 37 Suppl 7: 17-24)に報告。過去2年間に一般市民の3割超が皮膚科医を受診し、性感染症や真菌感染症は皮膚科以外の診療科を最初に受診する割合が高いなど、皮膚疾患におけるペイシェントジャーニーの初診から診断までに関する実態を明らかにした。

欧州27カ国の一般市民4万4,689人を対象に調査

 皮膚疾患は頻度が極めて高く、症状が多岐にわたる。多くが治療に時間を要することから、「最初の診察」が患者が医療と良好な関係を構築する上で重要なステップになると考えられる。そこで同プロジェクトチームは、異なる医療環境における皮膚疾患患者の医療経過を分析するため、欧州連合(EU)加盟24カ国と英国、スイス、ノルウェーの18歳以上の一般市民4万4,689人(男性2万1,887人、女性2万2,802人)を対象にアンケートを実施した。

 全対象者のうち、過去12カ月に少なくとも1つの皮膚疾患または皮膚関連の不快な感覚を有していた者に臨床データの他、受診のきっかけや診療科、診断の経緯などを質問した。受診しなかった場合はその理由についても尋ね、皮膚疾患を複数有する場合は最も気になる症状について回答を求めた。

 データの解析は全体と、8つの疾患(痤瘡、脱毛症、アトピー性皮膚炎、真菌感染症乾癬、酒皶、皮膚がん、性感染症)別に行った。なお、皮膚がんは医師に診断された者のみを対象としたが、他の疾患には自己申告も含まれる。

初診の診療科:乾癬などは皮膚科、真菌感染症はかかりつけ医、性感染症はその他の診療科

 検討の結果、過去12カ月間に少なくとも1つの皮膚疾患または皮膚に関連する不快感を経験した者は2万2,986人(50.9%)と半数を超えた。最も多かった疾患は真菌感染症の10.1%で、次いで脱毛症8.0%、痤瘡5.4%、アトピー性皮膚炎5.3%、乾癬3.9%、性感染症2.8%、酒皶1.9%、皮膚がん1.5%の順だった。

 全体の18.4%が過去12カ月間に、30.3%が過去2年間に皮膚科医を受診していた。受診理由は、ほくろのチェックまたは皮膚がんのスクリーニングが最も多く(22.3%)、再発または長期持続する皮膚疾患(16.2%)、急性または一過性の皮膚障害(12.0%)が続いた。

 皮膚科を最初に受診した割合が50%を超えていたのは痤瘡、乾癬、酒皶で、真菌感染症ではかかりつけ医での初診が約40%と皮膚科医の30%を上回った。また、性感染症は皮膚科医が10%、かかりつけ医が約20%とどちらも少なく、60%以上はその他の診療科を受診していた。なお8疾患全てにおいて、かかりつけ医の初診と診断の割合にはわずかな差しか認められなかった()。これは、初診を担ったかかりつけ医の大半が皮膚科専門医に紹介することなく、自ら診断を下していることを示唆している。

図.疾患別に見た初診と診断を受けた診療科の割合

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J Eur Acad Dermatol Venereol 2023; 37 Suppl 7: 17-24)

 過去12カ月以内に看護師や薬剤師を含む医療の専門職と関わりを持った割合はほとんどの疾患で70%を超えていたが、痤瘡は63.6%、脱毛症は55.3%とやや低かった。受診しなかった理由としては、脱毛症では「診察を受けなくても心配ない」(53.7%)、乾癬では「同様の症状で以前相談しているため、対処法を知っている」(39.7%)、皮膚がん以外の他の5疾患では「自分か家族が対処できる」(39.6〜53.4%)が最も多かった。

 今回の知見について同プロジェクトチームは、患者アンケートという限界はあるとしながらも「皮膚疾患患者として"選択"された集団ではなく、一般集団から広くデータを得ることができた。ペイシェントジャーニーの最初のパート、初診から診断に焦点を当てた今回の研究結果が、患者ニーズに沿った医療介入の実現につながれば、転帰の改善や医療費の削減も期待できる」としている。

(編集部)