GLP-1受容体作動薬のセマグルチドは、糖尿病患者における心血管イベントのリスクを低下させることが示されている。しかし、非糖尿病例において、同薬が過体重および肥満に関連する心血管リスクを低下させるか否かは不明である。米・Cleveland Clinic Lerner College of MedicineのA. Michael Lincoff氏らは、イベント主導型の多施設共同二重盲検ランダム化比較試験(RCT)により、セマグルチドとプラセボを比較。平均39.8カ月の追跡において、週1回のセマグルチド投与が心血管イベント発生率を低下させたことをN Engl J Med2023年11月11日オンライン版)で報告した。

41カ国で1万7,000例超を登録

 2035年までに世界人口の半数が肥満または過体重になると予測されている。また、BMI高値に関連した死亡は年間400万人に上り、死因の3分の2を心血管疾患が占めると報告されている。しかし、肥満への介入による心血管転帰の改善を示す臨床試験のエビデンスは不足している。

 今回報告されたSemaglutide Effects on Cardiovascular Outcomes in People with Overweight or Obesity(SELECT)試験では、2018年10月~21年3月に41カ国804施設において、BMI 27以上で心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、症候性末梢動脈疾患)の既往がある45歳以上の非糖尿病患者1万7,604例(平均年齢61.6±8.9歳)を登録。セマグルチド群(2.4mgを週1回皮下投与、8,803例)とプラセボ群(8,801例)に1:1でランダムに割り付けた。両群とも基礎にある心血管疾患に対する標準治療を併用した。

 BMIは33.3±5.0、HbA1cは5.8±0.3%で、試験薬への曝露期間は34.2±13.7カ月、追跡期間は39.8±9.4カ月だった〔いずれも平均値±標準偏差(SD)〕。

 心血管の主要評価項目は、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合。初回イベント発生までの期間で評価した。また、安全性についても評価した。

セマグルチド群でイベント発生率が有意に低下

 主要評価項目とした心血管イベント発生は、プラセボ群の701例(8.0%)に対し、セマグルチド群では569例(6.5%)と有意に少なかった〔ハザード比(HR)0.80、95%CI 0.72~0.90、P<0.001〕。

 重篤な有害事象の発生は、プラセボ群の36.4%に対しセマグルチド群では33.4%と有意に少なかった(P<0.001)。試験薬の中止に至る有害事象の発生は、プラセボ群の8.2%に対しセマグルチド群では16.6%と有意に多かった(P<0.001)。セマグルチド群では胃腸症状が多かった。

 なお、セマグルチド群では体重およびウエスト周囲長の減少効果が認められた。

 これらの結果より、Lincoff氏らは「心血管疾患の既往があるが糖尿病のない過体重または肥満の患者において、週1回のセマグルチド2.4mg皮下投与は、プラセボと比べ心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の発生率の低下に関して優れていた」と結論。また「今回示されたセマグルチドの効果は、糖尿病患者を対象とした既報におけるものと同程度に高く、心血管イベントの二次予防におけるセマグルチドの適応範囲を拡大できる可能性を示唆している」と付言している。

(小路浩史)