国が2013~15年に生活保護基準額を引き下げたのは違法だとして、愛知県の受給者13人が減額処分取り消しや損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が30日、名古屋高裁であった。長谷川恭弘裁判長は「著しく合理性を欠き、裁量権の範囲を逸脱していることは明らかで、違法だ」と述べ、請求通り処分を取り消した上、国に原告1人当たり1万円の賠償を命じた。一審名古屋地裁は請求を棄却していた。
 同種訴訟の高裁判決は2件目で、原告側勝訴は初めて。全訴訟を通じて初めて賠償も認めた。
 国は13年以降、物価の下落などを理由に、食費などに充てる生活扶助の基準額を段階的に引き下げた。下げ幅は過去最大の平均6.5%で、削減額は年約670億円に達した。
 長谷川裁判長は、学術的な裏付けのない厚生労働省独自の物価指数を使用し、一時的に物価が上昇した08年を下落率算出の始期とした点などから、「統計など客観的数値との合理的関連性や、専門的知見との整合性を欠く」と指摘。厚労相の裁量権の乱用に当たり、生活保護法に違反すると断じた。
 その上で、「厚労相には少なくとも重大な過失があり、国家賠償法上も違法と評価される」と認定。基準引き下げの受給者への影響は重大で、「処分取り消しでは精神的苦痛の全てを慰謝できない」として賠償を命じた。
 名古屋地裁判決は20年6月、「厚労相の判断の過程や手続きに過誤、欠落はなかった」と判断し、訴えを退けていた。
 同種訴訟は全国29地裁に起こされ、近年は原告勝訴が相次いだ。初の控訴審判決となった今年4月の大阪高裁は原告側が逆転敗訴しており、名古屋高裁の判断が注目されていた。
 厚労省の話 判決内容を精査し、適切に対応したい。 (C)時事通信社