目的外の過剰使用が問題に
市販薬の乱用・依存(埼玉県立精神医療センター 成瀬暢也副病院長)
薬局の店頭やインターネットで購入できる一般用医薬品(市販薬)。近年、本来と異なる目的や大量の服用による“乱用”の事例が問題となっている。市販薬の乱用や依存に詳しい埼玉県立精神医療センター(埼玉県伊奈町)の成瀬暢也副病院長に聞いた。
薬物依存患者が使用していた「主たる薬物」
▽せき止め薬や風邪薬
国立精神・神経医療研究センターの2020年の調査によると、国内の精神科を受診した薬物依存患者2733人の「主たる使用薬物」で市販薬は8.4%で、大麻(4.5%)などを上回った。18年の調査時の5.9%から増加している。
多用されるのは、せき止め薬、風邪薬、鎮痛薬、睡眠鎮静薬、カフェイン製剤など。成瀬副病院長によると、患者は仕事や家事への意欲を高めるためや精神的な苦痛を軽減するため、過量の服薬でもうろうとする状態を求めて使用する。
不適切な服薬の繰り返しで「効き目」が弱まり、飲む量が増え、せき止め薬では84錠入りの1瓶を1日で飲み切る人もいるという。薬をやめると禁断症状が表れるため、服用を繰り返す。
成瀬副病院長が診療している16人は、平均年齢45歳で男女比は6対4、乱用から受診まで平均8.2年が経過していた。就労している人が約半数、うつ病や統合失調症などの精神疾患のある人が8割いた。
薬物乱用に陥る人は、何かに行き詰まった時に家族や他の人に相談ができないなど、孤立状態にあると成瀬副病院長は分析する。「快楽を求めるというより、生きづらさを抱えた人が薬で自らを癒やしていると言えます」
▽責めない・叱らない
同院の依存症外来では、初回の診察に1時間ほどかけ、乱用のきっかけなどをじっくり聞く。その後は2週間に1回程度の通院で、薬を飲みたくなった時の対処法を共に考え、薬を飲んだ状況や種類・量を記録してもらう。責めず、叱らず、「生きづらさへの支援」を続けるうちにお互いの信頼関係が生まれ、次第に薬をやめ、使用頻度が減るという。
成瀬副病院長は「市販薬は法の下で流通し、違法薬物に比べ危険性は低いと考えられますが、安く簡単に手に入るので乱用や依存の面では問題です」と指摘する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/09/08 05:00)
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