アミロイドβ(Aβ)を標的とするモノクローナル抗体は、早期アルツハイマー病(AD)において認知および身体の機能低下を抑制する可能性がある。gantenerumabは、Aβ凝集体との親和性が極めて高い完全ヒト抗Aβ IgG1モノクローナル抗体の皮下投与薬で、AD治療薬として検討されてきた。しかし、約2,000例を対象とした第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照試験2件(GRADUATE ⅠおよびⅡ)の結果、gantenerumabは臨床的認知症の進行を抑制しなかった。詳細は、米・Washington University School of MedicineのRandall J. Bateman氏らがN Engl J Med2023; 389: 1862-1876)に報告した。

116週時の有効性と生物学的作用、安全性を評価

 対象は、30カ国288施設で登録したADによる軽度認知障害または軽度認知症を有し、陽電子放射断層撮影(PET)または脳脊髄液(CSF)検査でアミロイド斑を認める50~90歳の患者。gantenerumab群とプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、116週治療して有効性と生物学的作用、安全性を評価した。gantenerumabは120mg/4週ごとから開始し、36週間で目標用量の510mg/2週ごとまで漸増した。

 主要評価項目は、116週時点における臨床認知症尺度6項目の合計スコア(CDR-SB:0~18点、高スコアほど認知機能障害が重度)のベースラインからの変化量とした。

 GRADUATE IとⅡ試験に、それぞれ985例と980例を組み入れた。ベースラインのCDR-SBスコアは、GRADUATE Iでは3.7点、GRADUATE Ⅱでは3.6点だった。

 解析対象は、GRADUATE Ⅰがgantenerumab群499例、プラセボ群485例、GRADUATE Ⅱがそれぞれ498例、477例だった

アミロイド斑の量は低下するも認知機能改善せず

 ベースラインに対する116週時点のPET上のアミロイド凝集量は、GRADUATE I、Ⅱともプラセボ群の微増に対しgantenerumab群では減少し、両群の差はGRADUATE Iで-66.44センチロイド、GRADUATE Ⅱで-56.46センチロイドだった。gantenerumab群でアミロイド陰性状態(アミロイド凝集量24センチロイド以下)を達成した患者の割合は、それぞれ28.0%、26.8%だった。

 116週時点におけるCDR-SBスコアのベースラインからの変化量は、GRADUATE Iではプラセボ群の3.65点に対しgantenerumab群で3.35点(群間差-0.31点、95%CI -0.66~0.05点、P=0.10)、GRADUATE Ⅱ試験ではそれぞれ3.01点、2.82点(同-0.19点、-0.55~0.17点、P=0.30)といずれもgantenerumab群で少なかった。

24.9%にARIA-E、5.0%に症候性ARIA-Eが発生

 いずれの試験でも、プラセボ群と比べgantenerumab群でCSF中のリン酸化tau 181濃度が低く、Aβ42濃度が高かったが、PET上でのtau凝集体の蓄積量は両群で同等だった。

 gantenerumab群の24.9%に脳浮腫を伴うアミロイド関連画像異常(ARIA-E)が、5.0%に症候性ARIA-Eが発生した。

 これらの結果を基に、Bateman氏らは「早期AD患者にgantenerumabを使用した場合、116週時点でのアミロイド斑の量はプラセボと比べて減少したが、臨床的悪化の抑制には関連しなかった」と結論している。

(小路浩史)