「医」の最前線 希少疾患治療の最前線
専門施設で診断・治療を
~全身性アミロイドーシス・希少疾患その2~ 内木宏延・福井大学医学部分子病理学教授
指定難病数は現在、333に上る。「パーキンソン病」や「潰瘍性大腸炎」など有名人が患ったことから、一般に広く知られている病名もあるが、一度も聞いたことがないような病名も数多い。全体像が明らかな疾患はごくわずかで、未解決の課題も山積している。「希少疾患」に対する最新の治療方法や課題について紹介する。(取材・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)
内木宏延・福井大学医学部分子病理学教授
全身性アミロイドーシスは、アミロイドという異常なたんぱく質が全身のさまざまな臓器に沈着し、機能障害を起こす病気の総称だ。たまってしまうたんぱく質の種類によって36種類が確認されており、免疫グロブリン性(AL)アミロイドーシス、トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシス(野生型・変異型)が難病指定されている。アミロイドーシスに関する調査研究班の研究代表者である福井大学医学部分子病理学の内木宏延教授は「かつてアミロイドーシスは不治の病とされていましたが、近年、さまざまな薬剤の研究開発と臨床応用が急速に進行し、専門施設で正しい治療を受ければ完治するケースも出てきました。アミロイドーシスと診断されても、諦めないでほしいですね」と話す。
◆40代以上で発症
アミロイドーシスは、血液の中を循環しているアミロイド前駆たんぱく質が、さまざまな分子と反応して線維化し、臓器に蓄積されることで起こる。全身にたまる場合もあれば、一部の臓器にたまる場合もあり、たんぱく質の種類によって36種類に分類されている。
このうち、指定難病に認定されているのは、免疫グロブリン性(AL)アミロイドーシス、トランスサイレチン型(ATTR)アミロイドーシス(野生型・変異型)の主に2種類で、合わせて約1800人の患者が認定されている。
ALアミロイドーシスは、40代から高齢まで幅広い年齢で発症する。患者数の最も多い野生型ATTRアミロイドーシスは、かつて老人性全身性アミロイドーシスと呼ばれたように70代以降で発症し、変異型ATTRアミロイドーシスは40代くらいから発症することが多い。男女差があるのは野生型のみで、4対1の割合で男性に多く発症する。
認知症の大多数を占めるアルツハイマー病は約200万人の患者がおり、指定難病ではないが、アミロイドーシスの一つとされ、脳にアミロイドが沈着することで起こる。
アミロイドーシスの分類
ALアミロイドーシスは、さまざまな症状が起こるが、代表的なのはネフローゼ症候群だ。尿にたんぱく質がたくさん出てしまうために血液中のたんぱく質が減り、その結果、むくみが起こる。
野生型ATTRアミロイドーシスは、アミロイドが心臓にたまるため、むくみや息切れなど、心不全の症状で見つかることが多い。変異型ATTRアミロイドーシスの典型的な症状は、手足のしびれだ。
「いずれも、アミロイドーシス特有の症状ではなく、他の疾患でも起こりうるため、症状からこの病気を疑うことはできません。血液検査や画像診断をはじめ、さまざまな検査をして、可能性のある疾患を除外していくため、2~3年かかって、ようやく診断がつく場合が少なくありません」
◆確定診断には生検が不可欠
アミロイドーシスの確定診断には、組織を採取する生検を行い、アミロイドがたまっていることを証明することが不可欠だ。主に心臓にたまっていることが予測される場合は、心臓カテーテルで心筋生検、腎臓なら腎生検を行う。全身性アミロイドーシスは、症状のないところにもアミロイドが沈着しているため、高齢で体への負担が心配される場合には、腹部の脂肪組織など、より負担の少ない部位から採取する。
「昨秋、ATTRアミロイドーシスに対する新しい検査法として、核医学検査(テクネシウムピロリン酸シンチグラフィ)が保険収載されました。生検を行うかどうかを判断する上で非常に有力な検査です」
さらに、生検で採取した組織を使って免疫染色を行い、たまっているアミロイドがどのタイプなのかを鑑別する。
「アミロイドの診断を早くして治療に入るポイントは、患者さん自身が知識を持つというより、最初に診るかかりつけ医、あるいは紹介された医師がアミロイドについて正しい知識を持ち、きちんと病型診断をすることです」
アミロイドーシスの病理学的診断、免疫染色は一般の施設では難しいことが多いので、研究班で2年半前から、無料で病型診断のコンサルテーションを受け付けているという。
腎アミロイドーシス ミクロ像 糸球体、血管周囲に好酸性の均質な物質(アミロイド)の沈着がみられる(黄色点線)【日本病理学会提供】
◆治療薬の進歩で根治できる場合も
アミロイドーシスは、きちんと診断し、病型をきちんと鑑別できれば、それぞれの病型にあった治療法を選択できるようになってきた。
ALアミロイドーシスに対しては、白血病の標準的な治療である化学療法と自己末梢血幹細胞移植を行った結果、たまっていたアミロイドが消失し、根治できる場合があるという。
ATTRアミロイドーシスに対しては、進行を遅らせる薬がここ数年で相次いで保険適用になった。
「20年前にはアミロイドーシスと診断されても有効な治療法がなく、不治の病とされていました。新しい治療法が導入され、治る見込みが出てきたことで、医師の間でもアミロイドーシスに対する関心が高まってきて、より早期発見、早期治療が進むのではないかと期待しています。アミロイドーシスと診断されても、諦めなくていい。正しく診断を受け、専門施設で治療を受けてほしいです」
(2021/10/28 05:00)
【関連記事】