近年、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(AD)に対する新たな治療選択肢として生物学的製剤やヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬が相次いで登場しているが、それらの違いや臨床上の使い分けの基準は明確ではない。先ごろ来日したドイツ・University Hospital Augsburg/Ludwig Maximilian University of MunichのAndreas Wollenberg氏の話を中心に新薬の現状と可能性、課題などについてまとめた。同氏はADの複数の薬剤について国際共同治験に関わるとともに、欧州の診療ガイドラインの全身療法編『European guideline (EuroGuiDerm) on atopic eczema:part I systemic therapy』(J Eur Acad Dermatol Venereol 2022;36:1409-1431)の筆頭著者である。

コントロール不良で患者に負荷

 日本におけるAD患者に対する対処法は、①薬物療法、②皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策ーが基本となっている(日皮会誌2021; 131: 2691-2777/アレルギー 2021;70:1257-1342)。

 薬物療法としては、ステロイドなど抗炎症外用薬により痒みと炎症を速やかに軽減する「寛解導入」と、それらを定期的に投与して炎症の再燃を抑制するなどの「寛解維持」に分かれる。こうした治療により、患者の多くはADの症状をコントロールできる。ただし、効果不十分な患者やステロイド外用薬の副作用が生じる患者も一定数おり、こうした例では強い痒みのために睡眠が妨げられたり、外見を気にして人との関わりを避けたりするなど日常生活への影響や精神的な負荷は見過ごせないものがある。

 国内で行われた後ろ向き研究では、薬物療法を行っても患者の約2割が経口ステロイド、免疫抑制薬シクロスポリンなどによる継続的な全身療法を必要としたとの報告がある(J Dermatol 2019; 46: 652-661)。

 こうした背景から、インターロイキン(IL)-13やIL-4、IL-31、IL-22、JAK、OX40といったADの病態形成に関わる分子を標的とする薬剤が国内外で相次いで開発されるようになった。いずれも炎症、アレルギー、皮膚バリア機能の低下、痒みなどに関与するとされている。

患者の4割弱で皮疹消失またはほぼ消失

 国内でADの治療薬としてシクロスポリンが保険適用になって以来、全身療法薬として10年ぶりに登場したのが抗IL-4/13受容体抗体デュピルマブだ。ヘルパーT細胞(Th)2が産生するサイトカインであるIL-4とIL-13の2つのシグナル伝達を阻害し、炎症を抑制するとされている。

 同薬をステロイド外用薬に上乗せして2週間隔で皮下投与し、有効性や安全性を検証した結果、中等症~重症ADの4割弱で皮疹が消失・ほぼ消失するなどの高い有効性が得られ(Lancet 2017;389:2287-2303)、医療現場で支持されている。

 デュピルマブの上市以降、2023年11月までにADの全身療法薬として抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブ、JAK阻害薬バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ、抗IL-13抗体トラロキヌマブが相次いで承認された(表1)。抗IL-13抗体lebrikizumabも2023年11月27日に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会での審議を通過しており、承認間近とみられる(2023年12月5日時点)。

表1.国内で既存治療で効果不十分なADに保険適用されている主な薬剤

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(薬剤の添付文書などを基に作成)

注射の生物学的製剤 vs. 経口のJAK阻害薬

 先述した通り、これらの生物学的製剤やJAK阻害薬をどのように使い分けるかについては明確な基準はない。欧州のAD診療ガイドラインでは、生物学的製剤、JAK阻害薬、シクロスポリンを成人の重症例に強く推奨しているが、個々の薬剤の記載はアルファベット順だ(表2)。バリシチニブ、シクロスポリン、デュピルマブ、トラロキヌマブ、ウパダシチニブの順である。

表2. 欧州のAD診療ガイドラインで重症例に推奨されている薬剤

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J Eur Acad Dermatol Venereol 2022; 36: 1409-1431)

 既に国内で10年以上の使用経験があるシクロスポリンはさておき、欧州のAD診療ガイドラインで重症例に強く推奨されている生物学的製剤とJAK阻害薬の特徴をWollenberg氏に聞くと、「それぞれの薬剤の作用機序と強み・弱みを知った上で、どの薬剤が患者の利益にかなうかを考える」と述べ、処方する際に考慮する判断材料として次の6点を挙げた。①効果発現の速さ、②エフェクトサイズ(効果量)の大きさ、③注意すべき薬物相互作用、④薬剤費、⑤治療前のモニタリングや臨床検査の必要性、⑥治療中のモニタリングの煩雑さー。

 まず、JAK阻害薬の強みとして、①皮疹と痒みに対して比較的早期に効果が見られる、②ADの複雑な病態の多くのポイントに作用する、③用量設定に幅があるーなどが挙げられるという。半面、投与開始前や開始後定期的に臨床検査値のモニタリングが必要なこと、血栓塞栓症などの発症リスクがあることを使用上の留意点として示した。また(連日の)経口投与は(間欠的な)皮下注射よりもアドヒアランスの点で不利とした。

 一方、生物学的製剤の強みは、①比較的アドヒアランスが良好である、②安全性プロファイルが確認されている、③標的に対する選択性が相対的に高く、オフターゲット効果による副作用がJAK阻害薬と比べて少ないーなどを挙げた。

IL-4阻害作用に着目した生物学的製剤の使い分け

 ここで、ADに対する生物学的製剤として日本で最初に臨床導入されたデュピルマブと最も新しいトラロキヌマブの作用機序の違いを見ると、デュピルマブがIL-4経路とIL-13経路をブロックするのに対して、トラロキヌマブはIL-13経路のみに作用する。トラロキヌマブも、既存治療で効果不十分な中等症~重症のAD患者に対して、ステロイド外用薬との併用で有効性が確認されている(Br J Dermatol 2021;184:450-463)。

 デュピルマブについて承認時から安全性で課題となっているのが、比較的頻度の高い副作用として出現する結膜炎だ。臨床試験によって発現頻度は異なるものの、直近のリアルワールドデータでは26.1%と報告されている(J Am Acad Dermatol 2021;84:139-147)。

 結膜炎の既往がある患者ではリスクが高いことも知られる。だが、そのことをもってデュピルマブの治療を避けるべきではないというのが国際的なコンセンサスである(J Eur Acad Dermatol Venereol 2019;33:1224-1231)。結膜炎が現れた場合には眼科医の診察の下、抗炎症作用のある点眼薬でコントロールしつつデュピルマブを継続するのが1つの方法といえる。ただし、全身療法薬の選択肢が限られていた時期とは異なり、現在では複数の薬剤が使用可能だ。「選択肢が増えたことにより、他剤に切り替える意向を示す患者もいる」とWollenberg氏は指摘する。

 例えば、欧州のAD診療ガイドラインでは、IL-4を阻害せずIL-13のみを標的とするトラロキヌマブは結膜炎を含む眼合併症の発現頻度がデュピルマブよりも低いようだと記載されている。ADに適応があるJAK阻害薬において、国内添付文書に副作用として結膜炎の記載があるのは1剤にとどまる。

 各薬剤がどのような背景を有する患者に有効かが投与前に把握できれば、より効果的に薬剤を処方することが可能になるが、有効性を事前に予測するバイオマーカーはあるのだろうか。同氏は「個々の患者で、薬剤選択に資するようなバイオマーカーは現時点では存在しない」と述べた上で、現状では「頭頸部に皮疹がある場合など疾患の表現型を参考に医師の経験で予測することになる」と述べた。

求められる「出口戦略」、新規メカニズムの新薬候補にも期待

 皮疹が改善して安定した場合の「出口戦略」も必要となる。厚生労働省がADに対する生物学的製剤やJAK阻害薬について策定した最適使用推進ガイドラインには次のような記載がある。

 「ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害外用薬等との併用によりある程度の期間(6カ月を目安とする)寛解の維持が得られた場合には、これら抗炎症外用薬や外用保湿薬が適切に使用されていることを確認した上で、本剤投与の一時中止等を検討すること」。

 ADの全身療法薬は、10~20歳代といった比較的若年の患者への使用も想定される。生物学的製剤もJAK阻害薬も完治が期待できる薬剤でないこと、長期の安全性、薬剤費という点を考慮すると、休薬の検討は妥当性があると考えられる。Wollenberg氏も「全身療法を継続するか否かについては、治療中のいずれかの時点で確認し、個々の患者に応じて休薬について判断する必要がある」と指摘する。

 今後のAD治療については、「Th2サイトカインをブロックする、より優れた新薬の登場が控えている」と期待を示した。具体的には、活性化T細胞に発現し炎症反応に関わるOX40を標的とした生物学的製剤、慢性期に表皮の肥厚に関わると考えられるIL-22の受容体を標的とした生物学的製剤などを挙げた。ClinicalTrials.govによると、ともに日本を含む国際共同治験が進んでいる。

 Wollenberg氏は日本の皮膚科医へのメッセージとして「ADは複雑、かつ重症化しうる疾患で、患者の負担が大きい疾患でもある。研究対象としても興味深く、患者を助けることができて、報われる。ぜひ、重症の皮膚疾患の治療に取り組んでいただきたい」と述べ、インタビューを締めくくった。

(編集部)