2024年度予算編成で焦点の診療報酬改定に向けた議論が今後、ヤマ場を迎える。物価高で賃上げ機運が高まっていることを理由に、医療界は診療報酬の引き上げを主張。これに、財務省が国民負担を抑制するため引き下げを求め、真っ向から対立している。攻防の行方は、岸田政権が掲げる社会保障分野の歳出改革の試金石となる。
 診療報酬は、医師らの人件費に当たる「本体部分」と「薬価」で構成される。薬価に関しては、厚生労働省が1日公表した調査で医薬品の市場での取引価格が公定価格を平均6%下回り、今回の改定で引き下げられる見込み。一方、本体部分は医療界が「引き上げは譲れない」(日本医師会の松本吉郎会長)と徹底抗戦の構えを見せる。
 これに対し、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は先月、コロナ補助金などで利益が増えた診療所の報酬単価を5.5%程度引き下げるよう提言した。これは本体部分のマイナス1%改定に相当し、財務省が実態調査からはじき出した。
 厚労省は8日に決定した診療報酬改定の基本方針に「医療従事者の賃上げ」を目指すと明記した。与党内には厚労族議員を中心に、衆院解散をにらんで医療界寄りの意見が強く、賃上げの原資を別枠で確保する案も浮上。財務省はこの案に「後々の先例になると困る」と難色を示し、両省の折衝が続いている。
 岸田文雄首相は8日の参院予算委員会で、診療報酬改定について「現場の方々の処遇改善につながるように仕組み面からも結果を出していくことが重要だ」と述べるにとどめた。報酬本体を引き上げれば医療費が膨らみ、国民の保険料負担が増える。社会保障改革を通じて少子化対策の財源を捻出することも決まっており、政権の重要課題「賃上げ」とどう両立させるか、首相は難しい判断を迫られる。 (C)時事通信社