政府が11日公表した「こども未来戦略」案は少子化対策の安定財源として、年3.6兆円規模を確保すると明記した。そのカギを握る「歳出改革」と「賃上げ」は、実現の行方が不透明。内閣支持率の低迷で、「痛み」を伴う大胆な改革に踏み切れず、甘い想定を基に歳出増を先行させる姿が浮かび上がる。後々、財源が不足すれば国債(借金)発行が膨らみ、将来世代の負担は一段と増す。
 年3.6兆円のうち、1兆円程度は公的医療保険に上乗せして徴収する「支援金制度」の創設で賄う。このほか、医療や介護など社会保障分野の歳出改革で1.1兆円程度、既定予算の活用で1.5兆円程度を捻出する。
 支援金の徴収は2026年度に始める。政府は当初、「実質的な追加負担は生じさせない」と説明したが、結局は国民1人当たり平均で月数百円程度の追加負担が生じる。公的医療保険は所得などに応じて拠出額が決まる仕組みのため、現役世代の負担が大きい。
 そこで、岸田文雄首相は先月、国会で「賃上げと歳出改革によって社会保障にかかる国民負担率の軽減効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築する」と答弁。支援金で保険料が引き上げられても、賃金が上がれば負担を感じづらくなるという理屈を持ち出した。
 国民負担率は所得に占める税や社会保険料の負担割合を示し、23年度に46.8%に達する見込み。稼ぎの半分近くが公的負担に回る事態に陥っており、もともと負担感が大きい。首相の期待通りに賃上げが進まなければ、現役世代の納得は得られそうにない。
 片や、社会保障改革の目玉に据えた高齢者の窓口負担引き上げは、明確な時期がいまだに示されない。そもそも、歳出改革で1.1兆円を捻出する目標は、近年の実績を単純に積み上げただけでハードルが低い上、6年もかかる計画で歩みも遅い。
 28年度までの間、財源が足りない分は「こども・子育て支援特例公債」(つなぎ国債)で賄うが、現時点で国債発行額の見通しは示されていない。歳出改革と賃上げが不発に終わって借金が大きく膨らめば、「将来への投資」のツケをさらに将来世代へと回す皮肉な結果になりかねない。 (C)時事通信社