中国・Weifang Medical UniversityのLili Zang氏らは、アルツハイマー病(AD)患者に対する光療法の効果を検討したランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を行い、その結果をPLoS One(2023; 18: e0293977)に発表。「光療法はAD患者の睡眠症状と精神行動症状を改善し、副作用は比較的少ないことが示唆された。同療法はADの精神行動症状に対する治療オプションとして有望である」と述べている。
MMSE6~26の高齢AD患者を対象としたRCTのみを抽出
ADは認知機能の低下だけでなく、睡眠障害および抑うつ症状やアジテーション(興奮症状)といった精神行動症状を伴うことが多い。光療法は、光線曝露による生体機能の調節効果を期待した治療法で、光生体調節(photobiomodulation;PBM)とも呼ばれる。AD患者では、屋外活動の減少や光刺激に対する感受性の低下のため、概日リズムが障害されることが少なくない。
光療法はADに対する非薬物的介入法として注目を集めており、睡眠障害や関連症状に対する有効性や安全性に関する報告は幾つかある(Sleep Med Rev 2016; 29: 52-62、J Alzheimers Dis 2020; 77:113-125)が、系統的な評価は不十分である。Zang氏らは今回、RCTのみを対象にして従来の報告よりもサンプル数の多いメタ解析を実施し、エビデンスの強化を試みた。
解析の対象とした試験は、mini mental state examination(MMSE)スコアが6~26の高齢AD患者(60~85歳)において光療法群と通常ケア群を比較したRCTで、アウトカム指標として、睡眠効率(SE)、日間安定性(IS)、日内変動(IV)、Cornell認知症うつ病尺度(CSDD)、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、Zarit介護負担尺度(ZBI)を含む12の指標のうち1つ以上の評価があるものとした。また、2群間の要約統計量として平均差(MD)を用いた。
睡眠障害、抑うつ、アジテーションを有意に改善
Zang氏らは文献検索により、AD患者598例を含むRCT 15報を同定。メタ解析の結果、睡眠障害に関して光療法は、SE(MD-2.42、95%CI -3.37~-1.48)、IS(同-0.004、-0.05~-0.003)、IV(同-0.07、-0.10~-0.05)をそれぞれ有意に改善、増強、減少させることが判明した(全てP<0.00001)。
精神行動症状関しては、光療法はCSDD(MD-2.55、95%CI -2.98~-2.12)およびCMAI(同-3.97、-5.09~-2.84)を有意に低下させ(いずれもP<0.00001)、介護の負担(ZBI)が軽減した(同-3.57、-5.28~-1.87、P<0.0001)。
SEの計算式やAD重症度にばらつきがあり慎重に解釈すべき
最後にZang氏らは、他のアウトカム指標を含めて今回の結果を考察。睡眠の質に関してはSEに加え、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)スコアの改善も示唆されたが「メタ解析の対象としたSEの計算方法が統一されていないので結果の解釈には注意が必要」と指摘。
光療法による季節性感情障害患者における抑うつ症状の改善については多数報告されているが、季節性でない抑うつに対する光療法の有効性については、依然議論が続いている。今回のメタ解析では、光療法によってAD患者の抑うつ症状が改善することが示されたが「対象患者の大半はmoderate ADであり、mild ADとsevere ADは少なく、ADの重症度が光療法の効果に影響を及ぼすかどうは不明である」と付言している。
(木本 治)