2020年来の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは人々の健康に大きな影響を及ぼしたが、神経疾患や認知症への影響を評価した研究は少ない。自治医科大学神経内科学部門講師の松薗構佑氏らは、認知症を含む日本人の神経疾患患者384例を対象に、COVID-19パンデミック発生前後における死亡率の変化などを検討。その結果、認知症患者の死亡率が上昇したことなどが明らかになったとJ Neurol Sci(2023年12月10日オンライン版)に報告した。
患者の死亡率と認知機能はパンデミック以後悪化
松薗氏らは対象をパンデミック以前の群(199例、2016年12月1日~18年11月30日に登録し、19年11月30日まで追跡)とパンデミック以後の群(185例、2019年12月1日~21年11月30日に登録し、22年11月30日まで追跡)に分け、1~3年の追跡期間中の死亡率と認知機能を検討した。認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)および改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の点数で評価した。
検討の結果、認知症患者の死亡率はパンデミック以前の群では5.3%であったのに対し、パンデミック以後の群では18.5%と有意に高かった(P<0.05)。また、追跡1年時における認知機能はパンデミック以前の群に比べ以後の群で有意に低かった(MMSE:19.9 vs. 16.1、HDS-R:17.0 vs. 13.6、いずれも30点満点で平均値を記載)。
なお、両群でベースラインの患者特性、フォローアップ期間に有意差はなかった。また、認知症以外の神経疾患患者では死亡率、認知機能ともに有意差は認められなかった。
認知症患者の予後改善には社会資源が重要
以上の結果について、松薗氏らは「社会資源が不足しがちだったCOVID-19のパンデミック期間において認知症患者の予後に悪影響が出ていた可能性が示唆された」と結論。「その要因は1つではない」とした上で、「認知症患者の生存期間延長や高次脳機能維持には、社会的な人間関係や医療・介護をはじめとする社会資源が大切であることがあらためて浮き彫りになった」と指摘した。
(小田周平)