「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

第8波の流行はいつまで続くのか (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第56回】

 2023年1月に入り、新型コロナウイルス第8波の感染者数が再び増加しています。死亡者数は過去最多になるとともに、中国での感染者数急増や米国での新たな変異株「XBB.1.5」の発生など、流行がさらに長期化するリスクが次々と発生しています。これに加えて、3年ぶりのインフルエンザの同時流行が医療の逼迫(ひっぱく)を起こす可能性も出てきました。こうした状況を総合的に見ながら、今回はこれから先の第8波の流行を予測してみます。

2023年の仕事始めを迎え、東京都千代田区の神田明神には商売繁盛を祈願する多くの参拝客が訪れた=EPA時事

2023年の仕事始めを迎え、東京都千代田区の神田明神には商売繁盛を祈願する多くの参拝客が訪れた=EPA時事

 ◇予測されていた第8波の流行

 新型コロナの流行が発生して3年が経過しました。この経験から分かってきたことの一つに、冬に流行が拡大しやすいという点があります。これは新型コロナに限らず、呼吸器感染ウイルスに共通した特徴とも言えるでしょう。こうした知見に基づき、日本でも22年11月ごろから第8波の流行が起きることは予想されており、まさにその通りの経過になりました。

 第8波の流行を起こしたウイルスは、第7波と同様にオミクロン株のBA.5で、その後、BA.5系統のBQ.1も次第に増加していきました。しかし、両者の感染力に大きな違いはなく、11月末までは冬の流行が予想通りの規模で発生していました。

 ◇死亡者数が過去最多に

 22年12月になると新規感染者数は増加しますが、その数は第7波に比べても少なく、流行規模はあまり大きくないと考えられていました。しかし、12月中旬から一日の死亡者数が増加し、連日、過去最多を記録するようになったのです。この時点でも流行しているウイルスはBA.5やBQ.1で、病原性に変化はありませんでした。

 そうなると、死亡者数が増加している原因として最も考えられるのは、感染者が報告されている数よりもかなり多いという点です。第7波までは全数把握がされており、新規感染者数が正確に発表されていましたが、第8波では全数把握が厳密に行われなくなったため、発表されている感染者数は氷山の一角になってしまったのです。

 つまり、22年12月中旬には新規感染者数が第7波を超えて、過去最多になったと推測されます。これだけ感染者数が増えれば、致死率は低くても死亡者数が増加します。さらに、12月中旬から高齢者の感染が増えてきたことも死亡者数の増加に影響しました。高齢者は持病を抱えている人が多いため、新型コロナに感染すると重症化しやすく、死亡することも多くなるのです。

 ◇第8波が想定外に拡大した理由

 第8波の感染者数が想定外に増加した理由としては、冬の流行であることや、年末年始に接触機会が増えたことなどが挙げられます。これに加えて、今シーズンの年末年始は行動制限が全くなかったことも、感染者数が増加した理由と考えられます。

 さらに、オミクロン株対応ワクチンの追加接種が22年秋から始まっていましたが、その接種があまり進まなかったことも第8波の拡大を増強したようです。23年1月初旬の時点でも、このワクチンの接種率は国民全体で36%、高齢者でも約6割という状況になっています。追加接種を受けることで感染予防効果が増強されるだけでなく、重症化予防効果も長く続くとされています。追加接種がまだの方は今からでも受けていただきたいと思います。

 このように第8波は予想された流行でありながら、予想を超える規模の流行になってしまいました。

新型コロナの感染拡大に見舞われた中国の患者ら(中国・上海)=AFP時事

新型コロナの感染拡大に見舞われた中国の患者ら(中国・上海)=AFP時事

 ◇第8波と中国リスク
 23年1月の年明け直後は感染者数が一時減少したものの、その後は再び増加を続けています。そんな中、流行を長期化させる新たなリスクがいくつか発生しています。

 まずは、中国での感染者数の急増です。中国はゼロコロナ政策をとっていましたが、22年11月末にそれを緩和してから感染者数が急増しました。中国政府は正式な感染者数を報告していませんが、北京大学は1月初旬までに9億人が感染したという推計を発表しています。中国はこれから春節(1月22日)の時期を迎え、多くの国民が移動する中、流行はさらに拡大するものと予想されています。

 この春節の時期には日本を訪問する中国からの旅行者も増え、その中に感染者がいると、日本国内での流行にも影響する可能性があります。これを防ぐために、日本政府は中国からの入国者に対する検疫強化を行っています。

 現在、中国で流行しているウイルスは日本と同様にBA.5系統ですが、もし新たな変異株が拡大した場合、日本の第8波流行にも大きな影響を与えるでしょう。新たな変異株は感染者が急増しているときに発生しやすいため、現在の中国は危険な状況にあると言えます。

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