「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

今夏の流行はどこまで拡大するか (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第66回】

 厚生労働省は今年の5月以降、定点医療機関からの報告数を毎週1回発表しており、この数が本格的な夏を迎えて増加傾向にあります。その一方で、「定点報告数では、どの程度の流行が起きているか分かりにくい」という意見もよく聞きます。そこで、今回は定点報告数の読み方を解説しながら、今夏の流行がどこまで拡大するかを予測してみましょう。

  ◇感染者数の増加は明らか

コロナ感染報告数の推移(厚労省の発表資料より)

コロナ感染報告数の推移(厚労省の発表資料より)

 厚生労働省は毎週金曜日に、全国の新型コロナ患者数を定点医療機関からの報告数として発表しています。これは5類に移行した5月8日から行われており、最初に報告された5月8~14日の数値は1週間で2.63人でした。

 この数字の意味は、全国の定点医療機関を受診した新型コロナ患者数が、1週間で1医療機関当たり2.63人だったということです。定点医療機関は全国に約5000施設あり、感染症診療で一定の基準を満たす病院や診療所が指定されています。インフルエンザでも定点報告が行われていますが、それと同一施設になります。

 この報告数が最近は増加しており、7月31日~8月6日の1週間は15.81人で、最初の報告数の6倍になりました。こうした状況から、第9波に入ったとする見解が一般的になっています。

 話は横道にそれますが、私はそろそろ「第何波」という呼称をやめた方がよいと思います。オミクロン株が主流になった昨年以降を見ると、新型コロナの流行は夏と冬に2回発生しており、今後は23年夏の流行、23~24年冬の流行と言った呼称の方が分かりやすいのではないでしょうか。そこで、本稿では第9波と呼ばずに、23年夏の流行とさせていただきます。

 ◇23年夏の流行の実態

 このように、23年夏の流行が国内で起きていることは明らかですが、その規模はどの程度なのでしょうか。

 厚生労働省では全数把握をしていた今年5月7日以前のデータを、定点報告した場合の参考値として発表しています。それによれば、7月31日~8月6日の15.81人という定点報告の数値は昨年11月中旬と同程度で、この時の全数把握による感染者数は1日約10万人でした。ただし、5月7日以前は新型コロナが2類相当で、検査がかなり積極的に行われていました。現在は検査を受ける人が少なくなっているため、実際はもっと感染者数が多いと考えていいでしょう。

 定点報告では各自治体の報告数も発表されており、これを見ると地域的には九州が多くなっています。こうした地域性を説明するのは難しいですが、今年は九州で梅雨明けが遅れたことなどが影響している可能性もあります。本連載でも何回か紹介しているように、雨の多い時期は屋内で過ごす時間が長く、密になるため、飛沫(ひまつ)感染が起こりやすくなるのです。

  ◇重要なのは医療提供の状況

 厚生労働省からの毎週の報告では、患者の年代も発表されています。報告開始以来、若い世代の患者が多いのですが、60歳代以上の高齢者も約2割います。高齢者は感染した場合に重症化する頻度が高いため、この世代の報告数は注意深く見ていく必要があります。

コロナワクチンの追加接種を受ける高齢者(2023年5月)

コロナワクチンの追加接種を受ける高齢者(2023年5月)

 入院患者については引き続き全数把握が行われており、週当たりの新規入院患者数が毎週の報告に掲載されています。この数が最近は1万人を超えており、感染者数の増加とともに増えてきている状況です。

 それでは、新型コロナ患者への医療提供の状況はどうなっているでしょうか。これは、厚生労働省が定点報告とは別に、「療養状況、病床数等に関する調査」で毎週発表しています(https://www.mhlw.go.jp/content/001131764.pdf)。この調査には、各自治体の確保病床や重症病床の使用率が掲載されており、8月14日公表の資料では兵庫県、福岡県、長崎県、鹿児島県で確保病床使用率が50%を超えていますが、全国的に医療の逼迫(ひっぱく)は見られていません。

 新型コロナの流行状況を把握するには、感染者数だけでなく医療提供の状況も重要な要素になるため、これに関連した情報も定点報告と一緒に発表してほしいと思います。

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