米・Harvard Medical School/Harvard Pilgrim Health Care InstituteのAmy R. Nichols氏らは、女性の不妊症と中年期における心血管の健康(CVH)との関連を明らかにすることを目的として、出産経験がある女性468例を対象にコホート研究を実施。その結果、不妊歴のある女性ではない女性に比べてCVHスコアが低いことが明らかになり、不妊症が女性における将来のCVHマーカーになりうると、JAMA Netw Open2024; 7: e2350424)に報告した。

不妊と心血管疾患に共通の生物学的機序

 不妊症とは、12カ月以上避妊せずに性交を続けても妊娠に至らないことをいう。多囊胞性卵巣症候群(PCOS)や子宮内膜症などの不妊症を引き起こす疾患は、慢性炎症やインスリン抵抗性と関連しており、心血管疾患(CVD)と共通する生物学的機序を有する。また不妊症とCVDには、喫煙、食事の質、過剰な脂肪といった共通の危険因子が存在する。

 そこでNichols氏らは、1999〜2002年に前向きコホート研究Project Vivaに登録された妊娠22週未満の参加者のデータを使って、出産経験がある女性における不妊症と中年期のCVHとの関連を検討。登録から約18年後、参加女性が中年期に到達した時点で不妊症に関するデータを収集し、2023年1〜6月に解析した。

米国心臓協会のLife's Essential 8スコアでCVHを評価

 米国心臓協会のLife's Essential 8(LE8)は、行動領域(食事、身体活動、睡眠、喫煙状況)、生物医学領域(BMI、血圧、脂質、血糖)の8項目からCVHを総合的に評価する指標で、スコアの範囲は0〜100、高スコアほど良好な健康状態を表す。主要評価項目は、不妊歴とLE8の平均総合スコア、行動領域スコア、生物医学領域スコア、血液サブ領域(脂質、血糖)スコアとの関連とし、年齢(中年期の到達時)、人種・民族、教育、世帯収入、初経年齢、10歳時の体形を調整した上で検討した。

 経産婦2,100例のうち、最終的に468例(中年期到達時の平均年齢50.6±5.3歳)を解析に組み入れた。468例中160例(34.2%)に不妊歴があった。

 LE8スコアの平均値は、総合で76.3±12.2、行動領域で76.5±13.4、生物医学領域で76.0±17.5、血液サブ領域で78.9±19.2だった。

 調整モデルで解析したところ、不妊歴がない女性と比べある女性は、中年期の推定LE8スコアが、総合(β=-2.94、95%CI −5.13〜−0.74)、生物医学(β=-4.07、同−7.33〜−0.78)、血液サブ(β=-5.98、同−9.71〜−2.26)の領域で有意に低かった。行動領域の推定LE8スコアも不妊歴がある女性で低かったが、有意差はなかった(β=-1.81、95%CI −4.28〜0.66)。

 また、不妊歴がない女性と比べある女性では、空腹時血糖値(β=6.31mg/dL、95%CI 2.63~9.98mg/dL)、HbA1c(β=0.23%、同0.11~0.34%)が高かった。non-HDLコレステロールも不妊歴がある女性で高かったが、有意差はなかった(β=7.66mg/dL、同0.52〜15.83mg/dL)。

35歳未満の不妊症で心血管健康スコアがさらに低下

 感度分析の結果、不妊歴がない女性と比較した推定LE8スコアは、35歳以降に初めて不妊症になった女性(94例)では総合がβ=-2.57(95%CI -5.32〜0.18)、生物医学領域がβ=-2.55(同-6.56〜1.57)、血液サブ領域がβ=-4.31(同-8.99〜0.37)だったのに対し、35歳未満で不妊症になった女性(64例)ではそれぞれβ=-3.67(同-6.66〜-0.68)、β=-6.13(同-10.60〜-1.66)、β=-8.00 (同-13.08〜-2.91)と低値だった。一方、不妊症になった年齢と行動領域スコアとの間に有意な関連は認められなかった。

 以上を踏まえ、Nichols氏らは「不妊症とCVDの関連を明らかにすることは依然として困難である。それは、PCOSや肥満インスリン抵抗性などは不妊とCVHの両方に影響を及ぼす可能性があり、両者は密接に関連し交絡した関係にあるからだ」とした上で、「今回の結果は、女性の心血管リスク評価項目に不妊症を含めることを示唆するエビデンスを強化するものである」と結論している。

(今手麻衣)