米・University of California San FranciscoのAndrew D. Auerbach氏らは、内科疾患による入院後に集中治療室(ICU)入室または院内死亡に至った成人患者における診断エラーの発生状況を後ろ向きコホート研究で検討。その結果、診断の見逃し/遅れが23%、患者に一時的または永続的な害を与えるエラーが18%で発生していたとJAMA Intern Med(2024年1月8日オンライン版)に発表した。
29施設・2,428例で1年間の診断見逃し/遅れを解析
診断エラーとは「患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされないこと、またはその説明が患者に伝わらないこと」とされ、診断の見逃し、遅れ、誤診が含まれる。多くの因子が関連するが、診療システムが複雑であることや、臨床医が診断に費やせる時間が限られていることが特に問題となる。
Auerbach氏らは今回、2019年に米国の29施設に内科疾患で入院し、ICU入室または院内死亡に至った成人患者2,428例(平均年齢63.9歳、男性54.4%)をランダムに抽出。診断エラー判定の訓練を受けた2人の臨床医が各患者の電子医療記録を検証し、診断エラー(診断の見逃し/遅れ)の有無、エラーの原因となる診断プロセスの誤り、エラーに起因する害について解析した。
診断エラーの特定にはSafer-Dx法の改訂版を用いた。診断プロセスの誤りはDiagnostic Error Evaluation and Research(DEER)分類、診断エラーの有害性はNational Coordinating Council for Medication Error Reporting and Preventionスケールを用いて評価した。
診断エラー発生率は23%、有害エラーは18%
解析の結果、全体の23.0%〔550例、標準偏差(SD)42.1%〕に診断エラーが発生しており、発生率は施設間のばらつきが大きかった。診断エラーの発生群と非発生群の年齢、性、人種/民族、入院状況(緊急入院、予定入院)に有意差はなかった。
診断エラーが一時的な害、永続的な害または死亡に関与したと判定された患者は436例、全体に占める割合は17.8%(95%CI 15.9~19.8%)で、発生率は施設間のばらつきが大きかった(SD 38.2%)。診断エラー発生群における一時的または永続的な害/死亡の発生率は77.1%(95%CI 72.3~81.9%)だった。
死亡は全体で1,863例だった。このうち診断エラーが死亡に関与したと判定された患者は121例で、死亡例全体に占める割合は6.6%(95%CI 5.3~8.2%)、診断エラー発生群に占める死亡例は29.4%(同24.0~35.3%)だった。
検査の選択と解釈・臨床評価が重要
診断エラーの原因となった診断プロセスの誤りのうち、最も発生率が高かったのは臨床評価に関する問題(診断の検討の遅れ、合併症の見逃し、不適切な診断の優先順位付けなど)で、次いでアクセス/プレゼンテーション(受診)に関する問題(誤ったトリアージ、受診の遅れ/未受診など)、検査に関する問題(必要な検査の依頼/実施の遅れ、臨床医による検査結果の誤った解釈など)の順だった。
多変量モデルによる解析で診断エラーとの関連が最も強かった診断プロセスの誤りは、臨床評価に関する問題〔Cox比例ハザードモデルによる調整後相対リスク2.89(95%CI 2.23~3.73)、ロジスティック回帰モデルによる調整後寄与割合21.4%(同16.4~26.4%)〕と検査に関する問題〔それぞれ2.85(同2.16~3.76)、19.9%(同14.7~25.1%)〕だった。
以上の結果について、Auerbach氏らは「診断エラーがICUへの移送または院内での死亡につながることは珍しくないことが判明した。こうしたエラーの原因のうち改善すべき最も重要な項目は、検査に関する問題(適切な検査の選択、適時の検査依頼、検査結果の正しい解釈)および臨床評価に関する問題〔診断時のバイアス(先入観、予断)の除去、診断の再考〕である」と結論。今後の対策について、「検査に関する問題の解決策は、警報や予測モデルといった情報ツールへの依存度が大きくなるだろう。臨床評価に関する問題を改善するには、臨床医の業務負担や指導、バイアス除去、手を止めて診断を振り返る診断タイムアウト、臨床医に別の診断をの可能性を提示するシステムなどの認知的介入についても検討する必要がある」と付言している。
(太田敦子)