糖尿病黄斑浮腫(DME)患者を対象とした国際第Ⅲ相YOSEMITE/RHINE試験では、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)-A/アンジオポエチン(Ang)-2阻害薬ファリシマブは、1年時点で視力改善においてアフリベルセプト8週間隔投与に対する非劣性を示し、対象の半数以上が16週間隔投与を達成するという良好な持続性が示された。中国・Tsinghua UniversityのTien Y. Wong氏らは、両試験の2年目の成績を検討。ファリシマブの最長16週間隔投与によるベースラインからの臨床的意義のある視力改善、解剖学的改善および持続性の延長が2年目も維持されたとOphthalmology2023年12月27日オンライン版) に報告した(関連記事「黄斑疾患の新規治療薬、投与間隔延長に期待」)。

VEGF-A/Ang-2阻害の利点を示唆

 過去10年間で硝子体内抗VEGF療法が、視覚障害を伴う中心窩を含むDMEの標準治療となってきた。ただし、臨床試験における抗VEGF療法に関連する有効性が実臨床では必ずしも得られないとの報告が相次いでいる。

 DMEを対象とした最大規模の臨床試験であるYOSEMITE/RHINEの1年目のデータから、ファリシマブによるVEGF-A/Ang-2が関与する2つの異なる経路の阻害は、VEGF単独の阻害よりも解剖学的および治療持続性の利点をもたらす可能性が示されている(Lancet 2022; 399: 741-755)。Wong氏らは、DME患者に対するファリシマブ硝子体内投与の長期的な有効性、持続性および安全性を評価するため、YOSEMITE/RHINE試験の2年目の成績を検討した。

BCVAやCSTの変化、治療間隔などを評価

 YOSEMITE/RHINEは同一デザインの第Ⅲ相二重盲検ランダム化比較試験。対象は、中心窩を含むDMEによる視力低下を伴う18歳以上の患者で、中心領域網膜厚(CST)が325μm以上、ETDRS視力表による最高矯正視力(BCVA)25~73文字とした。2018年9月~19年9月に31カ国353施設で登録した1,891例(940例/951例)を、①ファリシマブ6.0mgを導入(4週間隔6回)投与後、8週間隔で投与する群、②ファリシマブ6.0mgを導入(4週間隔4回以上)投与後、個別に治療間隔を調整するtreat-and-extend(T&E)で最長16週間隔で投与する群、③アフリベルセプト2.0mgを導入(4週間隔5回)投与後、8週間隔で投与する群―群に1:1:1で割付けた。T&E投与レジメンは、CSTおよびBCVAの変化に基づき行った。

 2年目の主要評価項目は、治療開始後100週時におけるBCVAおよびCSTのベースラインからの平均変化量、ファリシマブT&E群の治療間隔などとした。

2年時点の視力改善は3群で同等

 解析の結果、YOSEMITE/RHINE試験では試験薬を1回以上投与された患者の84%/87%が100週まで試験を完了した。視力改善におけるアフリベルセプト8週間隔群に対する非劣性は、ファリシマブ8週間隔群だけでなくより少ない投与量のファリシマブT&E群ともに、2年目も維持されていた。2年時におけるBCVAのベースラインからの調整平均変化量(92、96、100週平均、YOSEMITE/RHINE)は、ファリシマブ8週間隔群とT&E群でそれぞれ+10.7/+10.9 文字と+10.7/+10.1 文字、アフリベルセプト8週間隔群で+11.4/+9.4文字といずれも同等だった。

78%が12週/16週間隔投与を達成

 注射回数(YOSEMITE/RHINE)の中央値は、ファリシマブT&E群では10/11回と、ファリシマブ8週間隔群(15回)およびアフリベルセプト8週間隔群(14回)に比べて少なかった。

 ファリシマブT&E群では、持続性が2年目にさらに改善され、96週時点で12週間隔(18.1%/13.6%)または16週間隔(60.0%/64.5%)で投与した患者はYOSEMITE/RHINE両コホートともに78%に達した。52週時点で投与間隔を16週まで延長できた患者の7割以上(70%/82%)が96週まで投与間隔を短縮せず維持した。2年時におけるCSTのベースラインからの調整平均変化量(YOSEMITE/RHINE)は、アフリベルセプト8週間隔群(-196.3 μm/-185.6μm)と比べて、ファリシマブ8週間隔群(-216.0μm/-202.6μm)の方が大きかった。ファリシマブT&E群(-204.5μm/-197.1 μm)では、アフリベルセプト8週間隔群と同等だった。

 全体としてファリシマブは忍容性が高く、安全性プロファイルはアフリベルセプトと同等だった。治療中止に至ったファリシマブ群の4例(硝子体炎1例、ブドウ膜炎3例)を除き重症度は軽度~中等度と見なされ、網膜血管炎や閉塞性網膜血管炎はなかった。

解剖学的改善の影響は長期的に検討

 以上の結果から、Wong氏らは「ファリシマブ8週間隔/T&E投与による、1年目におけるベースラインからの臨床的意義がある視力の改善は2年目まで維持され、アフリベルセプト8週間隔投与と同等の状態を維持し、解剖学的改善はアフリベルセプト群よりもファリシマブ群の方が大きかった」と結論。

 2年目のファリシマブT&E群の注射回数の中央値は3回だった点について、同氏らは「来院回数が減り、実臨床でファリシマブ使用による治療負担が軽減される可能性がある。今回のデータは、DMEにおける血管安定性の促進と治療効果持続のためのAng-2/VEGF-A阻害の可能性をさらに裏付けるものだ。ファリシマブによる解剖学的改善が長期的な視力の転帰に及ぼす影響は、YOSEMITE/RHINE試験の終了者が参加資格を有するRHONE-X試験でさらに評価される予定だ」と付言している。

(坂田真子)