米・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのAlexander Drilon氏らは、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)repotrectinibの有効性と安全性を検討するため、ROS1融合遺伝子陽性のNSCLCを含む進行固形がん患者520例を対象に国際共同第Ⅰ/Ⅱ相試験TRIDENT-1を実施。検討の結果、repotrectinibはTKI治療歴の有無にかかわらず、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者において持続的な臨床活性を示したと報告した(N Engl J Med 2024; 390: 118-131)。(関連記事「repotrectinibがROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんで承認申請」)

第Ⅱ相試験で14カ月以上追跡

 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの治療薬として承認されている従来のROS1TKIには、耐性の出現、脳転移などの問題が知られている。repotrectinibはROS1、トロポミオシン受容体キナーゼ(TRK) A/B/Cを選択的に阻害する経口低分子TKIである。前臨床試験でROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する活性を示し、新たな治療選択肢として期待されている。

 Drilon氏らは今回、repotrectinibのROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する有効性と安全性を検討するため、TRIDENT-1を実施した。

 第Ⅰ相試験の対象は、ROS1NTRK1〜3またはALKの融合遺伝子を有する局所進行性・転移性固形がん患者。第Ⅱ相試験の対象は、ROS1融合遺伝子陽性のNSCLC患者およびNTRK融合遺伝子陽性の進行固形がん患者とした。

 第Ⅱ相試験では、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者を①TKI治療歴なし、②1剤のTKI治療歴があり化学療法歴はなし、③1剤のTKI治療歴と化学療法歴がある、④2剤のTKI治療歴があり化学療法歴はなし-の4コホートに割り付け、1~14日目はrepotrectinib 160mgを1日1回、15日目以降は160mgを1日2回投与した。

 主要評価項目は、第Ⅰ相試験がrepotrectinibの最大耐用量および第Ⅱ相推奨用量の確定とし、第Ⅱ相試験は固形がんの効果判定基準(RECIST 1.1)に従い盲検下独立中央判定(BICR)による客観的奏効率(完全奏効または部分奏効)とした。第Ⅱ相試験では、副次評価項目として、奏効期間、無増悪生存期間、頭蓋内奏効、安全性などを検討した。

 有効性の解析対象は、2021年10月15日までにrepotrectinibの投与を開始し、2022年12月19日(データカットオフ日)時点で約14カ月以上の追跡期間があるROS1融合遺伝子陽性のNSCLC患者。安全性の解析対象集団は、腫瘍や融合型がん遺伝子に関係なく、第Ⅱ相用量による治療を受けた全例とした。

TKI治療歴なし群で約8割、TKI治療歴あり化学療法なし群で約4割奏効

 2017年2月27日~22年12月19日に登録した520例のうち、103例を第Ⅰ相試験、416例を第Ⅱ相試験で治療。有効性の主要評価対象として、TKI治療歴のないROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者71例(年齢中央値57歳、女性61%、TKI歴なし群)、1剤治療のTKI治療歴があり化学療法歴のないROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者56例(同57歳、68%、TKI治療歴あり化学療法歴なし群)を抽出した。

 TKI治療歴なし群の追跡期間中央値は24.0カ月(範囲14.2〜66.6カ月)で、71例中56例(79%、95%CI 68~88%)に奏効が認められた。奏効期間中央値は34.1カ月(95%CI 25.6カ月~評価不能)、無増悪生存(PFS)中央値は35.7カ月(同27.4カ月~評価不能)だった。

 TKI治療歴あり化学療法歴なし群の追跡期間中央値は21.5カ月(範囲14.2〜58.6カ月)だった。奏効が認められたのは56例中21例(38% 95%CI 25~52%)で、奏効期間中央値は14.8カ月(95%CI 7.6カ月~評価不能)、PFS中央値は9.0カ月(同6.8~19.6カ月)だった。

 また、従来薬に対する耐性機構として多く認められているROS1 G2032R変異を有する患者17例中10例(59%、95%CI 33~82%)で奏効が認められた。

 ベースライン時に脳転移があった患者では、TKI治療歴なし群の9例中8例(89%、95%CI 52~100%)、TKI治療歴あり化学療法歴なし群の13例中5例(38%、同14~68%)で頭蓋内奏効が認められた。

 第Ⅱ相試験の426例で、最も一般的な治療関連有害事象(TRAE)はめまい(58%)、味覚異常(50%)、知覚異常(30%)で、TRAEによりrepotrectinib投与中止に至ったのは14例(3%)だった。安全性について、Drilon氏らは「主な有害事象は悪性度が低く、長期投与に耐えうるものだった」と評価している。

 試験結果を受け、ブリストル・マイヤーズ スクイブは2023年10月、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCを適応としてrepotrectinibの国内承認申請を行っている。米国では同じ適応で同年11月に承認されている。

(今手麻衣)