開腹手術後には手術部位感染症(SSI)が頻発するため、予防策として術中に創部の灌流洗浄が世界的に行われている。しかし、消毒液による洗浄の有益性を支持するエビデンスは不十分である。ドイツ・Technical University of MunichのTara C. Mueller氏らは、開腹手術中のポリヘキサニド溶液を用いた術創洗浄によるSSIの予防効果を検証する多施設3群ランダム化比較試験(RCT)Intraoperative Wound Irrigation to Prevent Surgical Site Infection After Laparotomy(IOWISI)を実施。米疾病対策センター(CDC)の手術創清浄度分類でclassⅡ(準清潔手術)の開腹手術において、ポリヘキサニド溶液による術中の創部洗浄と生理食塩水による洗浄または無灌流との間で、術後のSSI発生率に有意差はなかったことをJAMA Surg2024年2月21日オンライン版)に報告した。

689例を割り付け、術後30日以内のSSIなどを評価

 開腹手術における術中の創部洗浄にはポリヘキサニド溶液が使用されることが少なくない。理由は、広い抗菌スペクトラムや長い効果持続、抗炎症作用、バイオフィルム形成およびフィブリン沈着の抑制などだ。

 IOWISI試験の対象は開腹手術を予定している成人患者。2017年9月~21年12月にドイツの大学病院および一般病院12施設で1万1,700例をスクリーニングし、689例を閉創前の創部の予防的洗浄法により①ポリヘキサニド0.04%溶液による洗浄群(292例) ②生理食塩水洗浄群(295例) ③無灌流(対照群、102例)に3:3:1でランダムに割り付けた。主な除外基準は、清潔手術(CDC分類classⅠ)、腹腔鏡手術、再手術などとした。患者と結果評価者は介入を盲検化した。

 主要評価項目は、CDCの定義に基づく術後30日以内のSSIとした。副次評価項目として、術後30日以内の入院期間、再手術率、非感染性の創部合併症発生率、有害事象、重篤な有害事象、死亡、健康状態を評価した。

便益・安全性ともポリヘキサニド洗浄の優位性なし

 557例が試験を完遂した。intention-to-treat解析と安全性解析には全689例〔男性402例、女性287例、年齢中央値65.9歳(範囲18.5~94.9歳)〕を組み入れた。手術創の清浄度分類はほとんどがclassⅡだった(ポリヘキサニド洗浄群の92.8%、生理食塩水洗浄群および無灌流群の92.2%)。手術臓器は肝胆膵が59.7%と最多で、次いで大腸が18.7%、上部消化管が18.4%の順だった。

 術後30日以内のSSIの発生率は全体で11.8%。創部の洗浄法別では、生理食塩水洗浄群12.5%、無灌流群12.8%、ポリヘキサニド洗浄群10.6%と、生理食塩水洗浄群、無灌流群に対するポリヘキサニド洗浄群の優位性は認められなかった〔ハザード比(HR)1.23、95%CI 0.64~2.36、P=0.54 vs. 生理食塩水洗浄群、同1.19、0.74~1.94、P=0.47 vs. 無灌流群〕。

 また、重篤な有害事象の発生率を含め、副次評価項目のいずれにおいても他の2群に対するポリヘキサニド洗浄群の優位性は認められなかった。

 これらの結果から、Mueller氏らは「開腹準清潔手術において、ポリヘキサニド溶液による術中創部洗浄は、生理食塩水洗浄および無灌流と比べSSIの発生率を減少させなかった。術中のポリヘキサニド溶液による創部洗浄を、外科手術における標準的医療行為として推奨するべきではない」と結論。一方、今回の試験では事前の予想に反し準清潔手術が大半を占めていたことから、「緊急手術を含め、汚染下および敗血症の処置におけるポリヘキサニドの有用性を評価するにはさらなる臨床試験が必要」と指摘している。

(小路浩史)