カナダ・Concordia UniversityのMark A. Ellenbogen氏らは、「大うつ病性障害(MDD)の精神療法にオキシトシン(OT)点鼻薬を併用することで治療効果が改善する可能性がある」とするプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)の結果をPsychol Med(2024年3月6日オンライン版)に報告した。

オキシトシンは愛着や絆の形成に関連するホルモン

 MDDに対してはさまざまな薬物療法および精神療法があり、短期的効果は得られるものの、約3分の1の患者は治療に反応しない。また、多くの患者は残遺症状を経験し、臨床的寛解を達成できぬまま治療を中止する例も少なくない。

 OTは母子間の愛着や絆の形成に関与するホルモンとして知られ、OT点鼻薬投与が信頼感や協調性、肯定的コミュニケーションを引き出すとの報告もある。しかし、これらに反する結果も報告されており、一貫した知見は得られていない。

 Ellenbogen氏らは今回、ボランティアとして参加に同意したMDD患者23例を対象に、①対人関係療法(IPT)+ OT点鼻薬群(以下、OT群)12例(女性6例、平均年齢27.2±5.4歳)、②IPT + プラセボ群(以下、プラセボ群)11例(女性6例、同29.4±7.5歳)ーにランダムに割り付け、治療前(time 1)、治療終了直後(time 2)、6カ月後(time 3)の抑うつ症状をInventory of Depressive Symptomatology-Clinician Rated(IDS-C)で評価。さらに、治療者-患者関係への影響を見るため、Working alliance inventory-short form(WAI-S)で治療同盟(therapeutic alliance;治療者と患者の良好な治療関係を反映する指標)の変化も評価した。

OT点鼻薬による抑うつ症状改善の効果量は中程度~大

 両群とも4カ月間にIPTを16回受け、各セッションの前にOT点鼻薬またはプラセボを24IU、自己投与した。

 time 1→time 2→time 3におけるIDS-C平均スコアの推移は、プラセボ群の29.4±6.8→12.2±8.3→10.2±8.5に対し、OT群では32.8±11.5→7.2±6.6→4.7±4.6となった。マルチレベルモデル解析の結果、OT点鼻薬投与により抑うつ症状は有意に改善することが確認された(P<0.05)。

 IDS-Cスコアの変化を介入(OT点鼻薬)の効果量(Cohenのd)として求めたところ、time 2で0.75(95%CI -0.10~1.59)、time 3で0.82(同 -0.033~1.67)となった。これはCohenのdでは中程度~大きい効果とされている(Statistical Power Analysis for the Behavioral Sciences)。

 OT点鼻薬はWAI-Sスコアも改善し、治療者と患者における治療ゴールの共有、治療同盟の確立にも有用であることが示唆された。

 以上の結果から、Ellenbogen氏らは「MDDに対する精神療法の前にOT点鼻薬を投与することで、治療同盟の確立や治療効果の改善につながる可能性が示唆された」結論。その上で「パイロット試験であり、サンプルサイズが小さいことは本研究の限界だが、今回の知見が別の治療モダリティでも再現できるかを確認するために、より規模の大きいRCTを実施することが必要だ 」と述べている。

木本 治