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社会的ニーズが急上昇
働く人の健康を守る―産業医科大学

 産業医科大学は、優れた産業医の育成と産業医学の振興のために設立された、日本で唯一の医科大学である。うつ病に代表されるメンタルストレスや過重労働からの働き方改革の問題は、社会全体の問題として注目されている。これらの対策を推進する中心的な存在となるのが産業医だ。上田陽一副学長は「ここ数年で産業医のニーズが急激に高まっている。働く人の健康を守りたいという高い志を持った学生にぜひ入学してほしい」と話す。

 ◇働き方改革と両立支援

 インタビューに応え、開学の経緯を説明する上田陽一副学長
 産業医を育成する産業医科大学が、なぜ都心ではなく北九州市に設立されたのか疑問に思う人も少なくないだろう。

 「北九州は1901年に官営八幡製鉄所が開設され、筑豊炭田の全盛期には数多くの労働者が集まり、高度経済成長時代には北九州工業地帯として知られるようになりました。全国的にも環境が悪い中でじん肺や熱中症などが多発し、労働者の健康管理が必要とされていました。いくつかの工業都市が誘致に名乗りを上げましたが、人口100万人を超える政令指定都市で医学部・医科大学がなかったのは北九州市だけでした」と上田副学長は説明する。

 1972年に労働安全衛生法が制定され、一定規模以上の事業場に産業医を選任することが義務付けられたことから、産業医の育成が急務になった。その後、産業構造の変化に伴い職場環境は改善されているものの、アスベストによる中皮腫、肺がんの発生などの健康被害が大きな問題になっている。さらに、昨年、働き方改革関連法が国会を通過すると、産業医の役割が一層重要性を増してきた。

 また、がんの治療法の進歩によって、学校や仕事などの日常生活を続けながら、治療と両立していく患者が増えてきた。それをサポートするのも産業医の役割だ。

 「全国に先駆けて、大学病院に就学就労支援センターと両立支援科が設置されました。社会の要請に応えていきたいと思います」

 2016年には大学に、過労死などの防止対策を効果的に推進するための人材を育成する拠点としてストレス関連疾患予防センターが設置された。5年前に発足した産業保健データサイエンスセンターでは、企業健診と特定健診、医療費など活用可能なデータを連結し、新たなデータベースを構築している。分析結果が明らかになれば、労働生産性の向上や医療費抑制などに結び付く可能性を秘めている。

 ◇系統的に学ぶ

 医学部では6年間を通して系統的に産業医学について学ぶほか、5年次には現場実習も行う。卒業直後に「産業医学総合実習(10時間)」を受講すると、医師免許取得と同時に産業医資格を取得できる。

 学生時代から産業医学マインドを育成するため、「仕事力・人間力・発信力」の三つをキーワードにした学生支援プログラムを構築。1日産業医密着体験、産業医オフィス訪問、産業医との合宿のほか、名刺の渡し方、あいさつの仕方、身だしなみの整え方など専門家を招いて講習するマナー講座もある。

 「産業医になると企業の中で自分より年上の方々とも一緒に仕事をすることになります。このプログラムで社会人としての常識をしっかり身に付け、実践的な力を養ってほしいと思っています」

 なお、産業医科大学の産業医学基本講座あるいは日本医師会認定産業医・産業医学基礎研修(50単位)を受講することで、産業医資格を得ることができる。

 「本学および東京で開催する講習会は非常に好評で、いつも申し込みが全国から殺到します。それだけ産業医の資格取得を希望する方々が多いのだと思います」

 ◇卒業後は二つのコース

 産業医科大学
 医学部卒業後、2年間の初期研修を終えると、全員が大学に戻って後期研修を受けるシステムになっている。このため、初期研修は他の病院で行う学生が大多数だという。

 「私の時代には半分くらいが本学の大学病院で初期研修を行いましたが、今は数人。卒業生は、全国各地の研修指定病院で初期研修を受けています」


 後期研修は産業医としてトレーニングを受けるコースと、内科、外科、整形外科、小児科などの講座に入って修練を積みながら産業医のトレーニングを受けるコースの2通りがあり、どちらかを選択する。

 「企業に入って専属の産業医として働いたり、病院で勤務医をしたり、進路はそれぞれです。最近では産業医として開業する先生も増えています」

 卒業後、産業医同士のネットワークが密にあり、情報が入手しやすいというメリットも大きいようだ

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