岐阜薬科大学医薬品情報学研究室の大浦圭太氏らは、医薬品副作用データベースJapanese Adverse Drug Event Report database(JADER)を調べた結果、「漢方薬処方と薬剤性間質性肺炎(drug-induced interstitial lung disease;DIILD)発症との関連があらためて確認された」とBMC Complement Med Ther(2024 ;24: 121)に報告。その実態を明らかにした。
漢方薬54剤、6,864例を解析
DIILDは薬剤誘発性の肺毒性の中でも最も一般的なものであり、薬剤曝露により炎症と肺間質の線維化が引き起こされる。DIILDの原因となる薬剤としては、アミオダロンやインターフェロン、ゲフィチニブなどの抗がん薬、漢方薬(小柴胡湯や柴苓湯)が知られている。
漢方薬は複数の生薬の混合剤であり、黄芩(オウゴン)、柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)を含む漢方薬はリンパ球刺激試験で陽性反応を示し、DIILDの発症と関連するとの報告がある。
大浦氏らは、日本の自発報告データベース(Spontaneous Reporting System;SRS)であるJADERに2004年4月~23年4月に報告されたDIILDのうち、黄芩、柴胡、半夏を含む漢方薬(54製剤)との関連が疑われる6,864例を抽出。報告オッズ比(ROR)および服用から発症までの期間を検討した。
黄芩、半夏含有製剤に要注意、服用後31~36日に発症
多変量ロジスティック回帰モデルで調整後RORを求めたところ、①黄芩を含む製剤を毎日服用(ROR 1.47、95%CI 1.36~1.59)、②半夏を含む製剤を毎日服用(同1.05、1.01~1.10)、③男性(同1.45、1.34~1.57)、④60歳以上(同1.92、1.74~2.11)、⑤黄芩を含む製剤を毎日服用 + 60歳以上(同3.35、3.12~3.60)、⑥黄芩を含む製剤を毎日服用 + 半夏を含む製剤を毎日服用(同1.49、1.46~1.53)― でDIILDとRORの有意な関連が認められた。
また、10例以上のDIILDの報告があった21製剤について、発症までの期間(中央値)を評価したところ、柴胡桂枝乾姜湯が36.0日(四分位範囲27.0~63.0日)、柴苓湯が35.0日(同21.0~55.0日)、小柴胡湯が31.0日(同13.5~67.5日)だった。これら3剤にはいずれも黄芩、柴胡、半夏が含まれている。
論文の考察で大浦氏らは、DIILDの発症機序として、用量依存的な毒性と免疫を介した毒性の2つの機序が関与していると指摘(Respir Res 2012; 13: 39)。黄芩と柴胡は肺傷害を惹起すると考えられている(Intern Med 2012; 51: 3421-3425)。黄芩にはフラボノイド配糖体の一種であるバイカリンとそのアグリコンであるバイカレインが含まれるが、バイカレインはヒトの肺線維芽細胞をアポトーシスに導くとの報告もあるという(Biol Pharm Bull 2002 ; 25: 37-41)。
以上の結果をまとめて、同氏らは「JADERのデータを基に、漢方薬によるDIILDのリスクと発症までの日数を明らかにした。漢方薬の処方に際しては、投与のタイミングと用量を慎重に吟味し、不用意な投与は避けるべきであろう」と結論している。
(木本 治)