治療・予防

より適した治療の発見
~がん遺伝子パネル検査(国立がん研究センター 河野隆志・がんゲノム情報管理センター長)~

 がんに関わる複数の遺伝子を一度に調べることで、がん細胞に起きている遺伝子の変化を調べる「がん遺伝子パネル検査」。国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(東京都中央区)の河野隆志センター長に同検査の利用状況や課題について話を聞いた。

がん遺伝子パネル検査

がん遺伝子パネル検査

 ◇遺伝子を一度に検査

 がんは遺伝子の変異が元になって起こる。がん発生と関わる遺伝子は現在、数百種類が見つかっている。近年、新たながん治療薬として分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が登場した。

 分子標的薬は、正常な細胞にも作用してしまう従来の抗がん剤と異なり、がん細胞だけを狙い撃ちする。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、体内の免疫細胞の働きにブレーキがかかることを阻止し、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を活性化させる。これらの治療では、効果を判断するための遺伝子検査が行われるが、従来は一つの遺伝子のみを調べる検査が中心だった。

 一方、がん遺伝子パネル検査は患者の血液やがん組織からDNAなどを取り出し、数十から数百種類のがんに関わる遺伝子を一度に調べられる。対象は、最善とされる標準治療がない希少がん患者や標準治療を終了した、もしくは終了見込みの固形がん(血液がん以外の臓器や組織で塊を作るがんの総称)の患者で、年間約2万件のペースで行われている。「これらの患者にも、治療効果が期待できる遺伝子変異が見つかれば、新たな治療を提案できる可能性があります」

 ◇未来の治療に寄与

 同センターでは、がん遺伝子パネル検査や診療情報の提供に同意した約6万5000人の情報をデータベースに登録。治療薬の選択肢が示された症例は44.5%に上るが、実際に投与した症例は9.4%にとどまる。この理由について河野センター長は「国内で未承認、治験中の薬であったり、病状が進行して投薬に適さない状態であったりと、さまざまな事情で治療に至らないケースがあるようです」と説明する。

 ただしデータを蓄積する意義は大きい。登録した患者の99%以上がデータの二次利用に同意し、現在約80の大学や企業の研究チームなどが同データを活用しているという。

 「ある薬が有効だった患者に多い遺伝子変異、がん種などの特徴が分かれば、その薬をより効果があると思われる患者に投与できます。今後、新たな治療薬開発や標準治療の確立に寄与するでしょう」と河野センター長は期待する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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