蜂窩織炎はよく見られる皮膚軟部組織感染症だが、静脈うっ滞性皮膚炎、深部静脈血栓症、薬疹、リンパ浮腫、痛風など他の炎症性皮膚疾患との鑑別が難しく、蜂窩織炎患者と診断された症例の約30%が偽蜂窩織炎だったとの報告もある(JAMA Dermatol 2017; 153: 141-146)。こうした誤診により抗菌薬が過剰に使用され、患者の安全性や公衆衛生を脅かす懸念があるため、鑑別のツールとしてサーモグラフィによる皮膚表面温度測定とALT-70〔asymmetry(非対称性)、leukocytosis(白血球増加症)、tachycardia(頻脈)、年齢70歳以上〕予測モデルが提案されている。米・University of Wisconsin-Madison School of Medicine and Public HealthのMichael S. Pulia氏らは、蜂窩織炎の鑑別における患部皮膚表面温度とALT-70予測モデルの精度を検証する前向き診断検証研究を実施。両者の組み合わせで診断能が向上するとJAMA Dermatol(2024年3月27日オンライン版)に報告した。
救急、感染症、皮膚科専門医がレビュー
Pulia氏らは、2018年10月11日〜20年3月11日に米国中西部の四次医療センター救急部門を受診した急性皮膚下肢症状の患者204例〔平均年齢56.6歳、男性121例(59.3%)〕を対象に、受診時に患部および非患部の皮膚表面温度(最大値、平均値、患部と非患部の勾配値)を測定。蜂窩織炎の診断は6人の専門医(急性期医療で5年以上の臨床経験を持つ救急医2人、感染症医2人、皮膚科医2人)による独立したコンセンサスレビューで評価した。
ALT-70は症状の非対称性(3点)、白血球増加症(1万/μL以上:1点)、救急受診時の頻脈(90拍/分以上:1点)、70歳以上(2点)の計7点でスコア化、3段階(5点以上:治療を要する蜂窩織炎、3〜4点:皮膚科受診推奨、2点以下:蜂窩織炎でない可能性が高く再受診)および2段階(3点以上:蜂窩織炎疑い、2点未満:陰性)のカットオフ値を設定し検討した。
ロジスティック回帰分析で蜂窩織炎と偽蜂窩織炎の鑑別に最適な皮膚表面温度測定値およびカットオフ値を同定、ALT-70予測モデルと皮膚表面温度の単独および両者を組み合わせた場合の診断能を評価した。
患部皮膚表面温度とALT-70の組み合わせで特異度が向上
204例中92例(45.1%)が蜂窩織炎と診断された。蜂窩織炎例と偽蜂窩織炎例の患部皮膚表面温度は全ての測定値において有意差が認められた。平均最高温度は蜂窩織炎例33.2℃(95%CI 32.8〜33.6℃)に対し、偽蜂窩織炎例では31.2℃(同30.7〜31.7℃)と有意に低かった〔差2.0℃(同1.3〜2.7℃)、P<0.001〕。
患部皮膚最高温度31.2℃をカットオフ値とした場合、感度は93.5%(95%CI 90.1〜96.9%)、特異度は38.4%(同31.7〜45.1%)、陽性的中率(PPV)は55.5%(同48.7〜62.3%)、陰性的中率(NPV)は87.8%(同83.3〜92.3%)だった。
ALT-70については、白血球数が得られず算出不能だった29例を除く175例で検討した。3段階評価に基づくと、蜂窩織炎の可能性が高い5点以上は70例(40.0%)、皮膚科受診が推奨される3〜4点は84例(48.0%)、蜂窩織炎でない可能性が高い2点以下は21例(12.0%)だった。2段階評価に基づき蜂窩織炎の可能性が高い75例について専門医らは30例を偽蜂窩織炎と診断、40.0%が偽陽性だった。ALT-70値3点以上をカットオフ値とした場合、感度は98.8%(95%CI 97.2〜100%)、特異度は22.0%(同15.8〜28.1%)、PPVは53.9%(同46.5〜61.3%)、NPVは95.2%(同92.1〜98.4%)だった。
皮膚表面温度とALT-70の組み合わせ検査(患部皮膚表面最高温度31.2℃以上かつALT-70が3点以上を陽性と定義)の感度は91.7%(95%CI 87.7〜95.6%)、特異度は53.9%(同46.5〜61.2%)、PPVは64.7%(同57.6〜71.8%)、NPVは87.5%(同82.6〜92.4%)であり、それぞれ単独での評価に比べ特異度が向上した。
以上から、Pulia氏らは「蜂窩織炎例と偽蜂窩織炎例の間で患部の皮膚表面温度に有意差が認められた。サーモグラフィとALT-70はともに高い感度を示したが、両者を組み合わせることで特異度が向上した。皮膚表面温度とALT-70の組み合わせ検査は、蜂窩織炎の過剰診断を減らす補助ツールとして有用であると示唆された」と述べている。
(編集部)