反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法は、治療抵抗性うつ病やアルツハイマー病(AD)に対する侵襲性が低い治療法として期待され、近年の臨床試験ではAD患者における認知機能の改善が示唆されている。韓国・Hanyang UniversityのYoung Hee Jung氏らは、早期AD患者を対象に海馬領域を標的としたrTMS療法の有効性を検討する単施設シャム対照ランダム化比較試験(RCT)を実施。シャム群と比べ、rTMS群で認知機能、手段的日常生活動作(IADL)、海馬ネットワークの機能的結合が有意に改善したとの結果をJAMA Netw Open(2024; 7: e249220)に報告した。

ADの認知機能評価尺度を使用

 頭部に当てた磁気コイルから特定の脳部位に電流を流し、反復的な磁気刺激により脳皮質の神経活動を活性化させるrTMS療法は、低侵襲性の治療法として注目されている。日本では治療抵抗性うつ病に対し保険適用され、軽度~中等度のAD患者に対する有効性も報告されている(Front Aging Neurosci 2022; 13: 993306)。

 Jung氏らは今回、早期AD患者に対する海馬領域を標的としたrTMS療法の有効性を検討するRCTを実施した。対象は、55~90歳で米国立老化研究所/アルツハイマー病協会(NIA/AA)の基準により早期AD(ADによる軽度認知障害/軽度AD)と診断され、PET/脳脊髄液検査でアミロイド陽性と判定された41例。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬/メマンチンを含む標準治療に4週間のrTMS療法を上乗せするrTMS群(21例)とシャム治療を上乗せするシャム群(20例)にランダムに割り付け、ベースライン、4週後、8週後に評価を行った。

 主要評価項目は、8週時のADの認知機能評価尺度 (ADAS-Cog)スコア(0~70点、高スコアほど認知機能が不良)のベースラインからの変化とし、副次評価項目は4週時におけるADAS-Cogスコアの変化、4週および8週時における言語流暢性(COWAT)、ストループ検査、視空間認知機能(TMT)、韓国版Mini-Mental State Examination(MMSE)、認知症臨床評価尺度 (CDR-SOB)、Seoul-IADL (S-IADL)などの変化とした。

 また、安静時機能的MRI(fMRI)を撮影し、4週時の海馬ネットワークの機能的結合の変化を評価した。

ADAS-Cog合計スコアと記憶領域スコアが有意に改善

 8週間の試験を完了した30例(rTMS群18例、シャム群12例、平均年齢69.8±9.1歳、女性60%)を解析対象とした。

 検討の結果、8週時におけるADAS-Cog合計スコアのベースラインからの変化は、シャム群と比べrTMS群で有意な改善を示し(33.3点 vs. 27.3点、群間差±標準誤差-5.2±1.6、P=0.002)、4週時でも有意差が認められた(32.8点 vs. 27.7点、同-4.4±1.6、P=0.007)。

 8週時におけるADAS-Cogの領域別スコア(記憶、言語、実行機能)のベースラインからの変化を見ると、記憶領域はrTMS群で有意に改善した一方(群間差-4.5±1.4、P=0.002)、言語領域はシャム群で有意に改善した(同1.7±0.7、P=0.03)。実行機能領域に有意差はなかった(P>0.99)。

 8週時のCDR-SOBは、シャム群と比べrTMS群で有意な改善を示した(群間差-0.78±0.3、P=0.008)。同様にS-IADLもrTMS群で有意に改善した(同-2.4±0.8、P=0.002)。また、fMRIの結合性解析により、rTMSは海馬と楔前部との機能的結合を強化させ、ADAS-Cogスコアの改善と関連していることが示された(r=-0.57、P=0.005)。

 以上の結果を踏まえ、Jung氏らは「早期AD患者に対する海馬領域を標的としたrTMS療法により、認知機能およびIADL、海馬ネットワークの機能的結合性を有意に改善することが示された。ADの新たな治療法として期待される」と結論している。

栗原裕美