閉経前中年女性サッカー選手とバレーボール選手における骨密度と血中ビタミンD濃度の現状
学校法人 順天堂
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の吉村雅文 教授、大学院保健医療学研究科の宮森隆行 講師らの研究グループ、および日本サッカー協会 田嶋幸三 名誉会長は、2021年に締結した産学包括連携協定の一環として共同研究プロジェクトを発足しました。そのプロジェクト研究の一部として女性のライフステージに着目し、閉経前40歳代女性の屋内外における運動習慣と骨密度(*1)の現状を調べました。その結果、同年代で屋外スポーツであるサッカーを実施している群と屋内スポーツであるバレーボールを実施している群は、運動習慣がない方々を対象とした群と比較して骨密度が有意に高いこと、また、サッカーを実施している群は、骨形成に必要とされる血中ビタミンD(*2)濃度が最も高いことを明らかにしました。女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、骨代謝に重要な役割を果たしますが、閉経後にその分泌量が急激に減少することが報告されています。そのため本成果は、女性のライフステージにおける閉経前にサッカーおよびバレーボールを定期的に実施することは、骨密度を高められる可能性を示すものです。
■ 本研究成果のポイント
閉経前40歳代女性を対象にサッカー群、バレーボール群、運動習慣なし群に分けて骨密度と血中ビタミンD濃度を比較
サッカー群は、運動習慣なし群よりも大腿骨の骨密度と血中ビタミンD濃度が高く、バレーボール群は運動習慣なし群よりも腰椎と大腿骨の骨密度が高かった
閉経前に屋内外で運動することは、骨密度を高めることができる可能性が示された
■ 背景
骨粗鬆症(*3)は、骨折のリスクが高まる疾患で、特に女性は閉経によってかなりの骨量が失われるため、女性の骨粗鬆症の有病率は男性の約3倍とされています。骨粗鬆症を予防するためには、運動の実施、体内のビタミンD貯蔵量の維持が重要であると考えられます。ビタミンDは、骨代謝に関わる重要なビタミンですが、食事からの摂取のみならず、日光を浴びると皮膚で生成されることが知られています。そのため、日光に浴びやすい屋外スポーツを実施している女性は、血中ビタミンD濃度が高く、さらに、閉経前に屋内外で定期的にスポーツを実施することは、骨密度を高めることができる可能性があります。そこで本研究は、シニアスポーツとして近年競技人口が増加傾向にあるサッカーとバレーボールに着目し、これらのスポーツの実施における血中ビタミンD濃度と骨密度の現状を調べることを目的としました。
■ 内容
本研究では、閉経前の40歳代女性を対象に、屋外スポーツであるサッカーをしている方(サッカー群)、屋内スポーツであるバレーボールをしている方(バレーボール群)、日常的に運動を実施していない方(運動習慣なし)から研究への参加募集をしました。全体の参加者は、92名となり、それぞれサッカー群27名、バレーボール群40名、運動習慣なし群25名となりました。測定は、腰椎と大腿骨頚部の骨密度、体内にあるビタミンD貯蔵量の指標とされている血中25-ハイドロキシビタミンD(25-OHD)濃度の測定を行い、サッカー群、バレーボール群、運動習慣なし群の3群間で比較しました。
その結果、腰椎の骨密度は、バレーボール群が対照群よりも高く、大腿骨頚部の骨密度は、サッカー群とバレーボール群において、運動習慣なし群よりも高いことが分かりました。さらに、骨形成に必要とされる血中25-OHD濃度は、サッカー群が最も高いことが明らかになりました。このように本研究では、閉経前40歳代の女性においては日常的に屋内外で運動をすることにより骨密度が高まり、骨の健康に重要な血中25-OHD濃度は屋外運動で高まる可能性が分かりました。
■ 今後の展開
体内のビタミンD貯蔵量が高いと骨密度も高くなりやすいとされていることから、閉経前にサッカーをはじめとする屋外スポーツの定期的な実施は、血中25-OHD濃度を高め、閉経後の骨量減少を抑制し、将来的には骨粗鬆症を予防できる可能性があります。
図1:閉経前中年女性サッカー選手とバレーボール選手における血中ビタミンDと骨密度の現状
【解説】屋内外のスポーツであるサッカーをしている方とバレーボールをしている方の腰椎と大腿骨の骨密度は、運動習慣のない方に比べて高く、また屋外スポーツであるサッカーをしている方は、バレーボールをしている方、および運動習慣のない方に比べて、骨形成に必要な血中ビタミンD濃度が高いことが分かった。
■ 用語解説
*1 骨密度:骨を構成するカルシウムなどのミネラル成分の密度。加齢による減少率は女性の方が大きい。
*2 ビタミンD :カルシウムの吸収促進、骨の成長促進、免疫機能の調整などに欠かせない脂溶性ビタミン。
*3 骨粗鬆症:骨量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気。日本には約1000万人以上の患者がいる。
■ 研究者のコメント
近年、美容意識の高まりや外気温の上昇によって、運動を含めた屋外活動が避けられるようになり、日本人の多くはビタミンDが欠乏していると報告されています。しかし、日光を浴びることは、体内のビタミンDを増やすだけでなく、骨代謝を高めるなど、健康の維持・増進に効果的です。40歳代以降の女性は、是非、ウォーキングなどから定期的な屋外運動を始めてみてはいかがでしょうか。
■ 原著論文
本論文は、BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitationに2024年7月2日付で公開されました。
タイトル: Vitamin D levels and bone mineral density of middle-aged premenopausal female football and volleyball players in Japan: a cross-sectional study
タイトル(日本語訳): 閉経前女性サッカー選手およびバレーボール選手における血中ビタミンD濃度と骨密度の現状
著者:Kimiko Sakamoto1), Takayuki Miyamori1) 2) 3), Yuki Someya1) 4), Masashi Nagao5) 6), Yoshihiko Ishihara7), Yohei Kobayashi4) 5), Yu Shimasaki4), Junko Imai8), Takeshi Ono8), Hiroshi Ikeda2) 3) 5) 8), Kohzo Tashima8), Masafumi Yoshimura1) 4)
著者:坂本季実1)、宮森隆行1) 2),3)、染谷由希1),4)、長尾雅史5),6)、石原美彦7)、小林洋平4),5)、島嵜佑4)、今井純子8)、小野剛8)、池田浩2),3),5),8)、田嶋幸三8)、吉村雅文1),4)
著者所属:1)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科、2)順天堂大学大学院保健医療学研究科、3)順天堂大学保健医療学部理学療法学科、4)順天堂大学スポーツ健康科学部、5)順天堂大学医学部整形外科学講座、6)順天堂大学革新的医療技術開発研究センター、7)東京電機大学未来学部、8)日本サッカー協会
DOI : 10.1186/s13102-024-00938-x
本研究は、順天堂大学および日本サッカー協会の共同研究の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の吉村雅文 教授、大学院保健医療学研究科の宮森隆行 講師らの研究グループ、および日本サッカー協会 田嶋幸三 名誉会長は、2021年に締結した産学包括連携協定の一環として共同研究プロジェクトを発足しました。そのプロジェクト研究の一部として女性のライフステージに着目し、閉経前40歳代女性の屋内外における運動習慣と骨密度(*1)の現状を調べました。その結果、同年代で屋外スポーツであるサッカーを実施している群と屋内スポーツであるバレーボールを実施している群は、運動習慣がない方々を対象とした群と比較して骨密度が有意に高いこと、また、サッカーを実施している群は、骨形成に必要とされる血中ビタミンD(*2)濃度が最も高いことを明らかにしました。女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、骨代謝に重要な役割を果たしますが、閉経後にその分泌量が急激に減少することが報告されています。そのため本成果は、女性のライフステージにおける閉経前にサッカーおよびバレーボールを定期的に実施することは、骨密度を高められる可能性を示すものです。
■ 本研究成果のポイント
閉経前40歳代女性を対象にサッカー群、バレーボール群、運動習慣なし群に分けて骨密度と血中ビタミンD濃度を比較
サッカー群は、運動習慣なし群よりも大腿骨の骨密度と血中ビタミンD濃度が高く、バレーボール群は運動習慣なし群よりも腰椎と大腿骨の骨密度が高かった
閉経前に屋内外で運動することは、骨密度を高めることができる可能性が示された
■ 背景
骨粗鬆症(*3)は、骨折のリスクが高まる疾患で、特に女性は閉経によってかなりの骨量が失われるため、女性の骨粗鬆症の有病率は男性の約3倍とされています。骨粗鬆症を予防するためには、運動の実施、体内のビタミンD貯蔵量の維持が重要であると考えられます。ビタミンDは、骨代謝に関わる重要なビタミンですが、食事からの摂取のみならず、日光を浴びると皮膚で生成されることが知られています。そのため、日光に浴びやすい屋外スポーツを実施している女性は、血中ビタミンD濃度が高く、さらに、閉経前に屋内外で定期的にスポーツを実施することは、骨密度を高めることができる可能性があります。そこで本研究は、シニアスポーツとして近年競技人口が増加傾向にあるサッカーとバレーボールに着目し、これらのスポーツの実施における血中ビタミンD濃度と骨密度の現状を調べることを目的としました。
■ 内容
本研究では、閉経前の40歳代女性を対象に、屋外スポーツであるサッカーをしている方(サッカー群)、屋内スポーツであるバレーボールをしている方(バレーボール群)、日常的に運動を実施していない方(運動習慣なし)から研究への参加募集をしました。全体の参加者は、92名となり、それぞれサッカー群27名、バレーボール群40名、運動習慣なし群25名となりました。測定は、腰椎と大腿骨頚部の骨密度、体内にあるビタミンD貯蔵量の指標とされている血中25-ハイドロキシビタミンD(25-OHD)濃度の測定を行い、サッカー群、バレーボール群、運動習慣なし群の3群間で比較しました。
その結果、腰椎の骨密度は、バレーボール群が対照群よりも高く、大腿骨頚部の骨密度は、サッカー群とバレーボール群において、運動習慣なし群よりも高いことが分かりました。さらに、骨形成に必要とされる血中25-OHD濃度は、サッカー群が最も高いことが明らかになりました。このように本研究では、閉経前40歳代の女性においては日常的に屋内外で運動をすることにより骨密度が高まり、骨の健康に重要な血中25-OHD濃度は屋外運動で高まる可能性が分かりました。
■ 今後の展開
体内のビタミンD貯蔵量が高いと骨密度も高くなりやすいとされていることから、閉経前にサッカーをはじめとする屋外スポーツの定期的な実施は、血中25-OHD濃度を高め、閉経後の骨量減少を抑制し、将来的には骨粗鬆症を予防できる可能性があります。
図1:閉経前中年女性サッカー選手とバレーボール選手における血中ビタミンDと骨密度の現状
【解説】屋内外のスポーツであるサッカーをしている方とバレーボールをしている方の腰椎と大腿骨の骨密度は、運動習慣のない方に比べて高く、また屋外スポーツであるサッカーをしている方は、バレーボールをしている方、および運動習慣のない方に比べて、骨形成に必要な血中ビタミンD濃度が高いことが分かった。
■ 用語解説
*1 骨密度:骨を構成するカルシウムなどのミネラル成分の密度。加齢による減少率は女性の方が大きい。
*2 ビタミンD :カルシウムの吸収促進、骨の成長促進、免疫機能の調整などに欠かせない脂溶性ビタミン。
*3 骨粗鬆症:骨量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気。日本には約1000万人以上の患者がいる。
■ 研究者のコメント
近年、美容意識の高まりや外気温の上昇によって、運動を含めた屋外活動が避けられるようになり、日本人の多くはビタミンDが欠乏していると報告されています。しかし、日光を浴びることは、体内のビタミンDを増やすだけでなく、骨代謝を高めるなど、健康の維持・増進に効果的です。40歳代以降の女性は、是非、ウォーキングなどから定期的な屋外運動を始めてみてはいかがでしょうか。
■ 原著論文
本論文は、BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitationに2024年7月2日付で公開されました。
タイトル: Vitamin D levels and bone mineral density of middle-aged premenopausal female football and volleyball players in Japan: a cross-sectional study
タイトル(日本語訳): 閉経前女性サッカー選手およびバレーボール選手における血中ビタミンD濃度と骨密度の現状
著者:Kimiko Sakamoto1), Takayuki Miyamori1) 2) 3), Yuki Someya1) 4), Masashi Nagao5) 6), Yoshihiko Ishihara7), Yohei Kobayashi4) 5), Yu Shimasaki4), Junko Imai8), Takeshi Ono8), Hiroshi Ikeda2) 3) 5) 8), Kohzo Tashima8), Masafumi Yoshimura1) 4)
著者:坂本季実1)、宮森隆行1) 2),3)、染谷由希1),4)、長尾雅史5),6)、石原美彦7)、小林洋平4),5)、島嵜佑4)、今井純子8)、小野剛8)、池田浩2),3),5),8)、田嶋幸三8)、吉村雅文1),4)
著者所属:1)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科、2)順天堂大学大学院保健医療学研究科、3)順天堂大学保健医療学部理学療法学科、4)順天堂大学スポーツ健康科学部、5)順天堂大学医学部整形外科学講座、6)順天堂大学革新的医療技術開発研究センター、7)東京電機大学未来学部、8)日本サッカー協会
DOI : 10.1186/s13102-024-00938-x
本研究は、順天堂大学および日本サッカー協会の共同研究の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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(2024/09/05 11:00)
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