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パレスチナ・ヨルダン川西岸地区:イスラエルによる強制移動で住民に深刻な被害

国境なき医師団

イスラエル軍により破壊され、入口が封鎖されたジェニン難民キャンプ=2025年3月5日 (C) Oday Alshobaki/MSF

パレスチナのヨルダン川西岸地区北部で、4万人超の避難民が適切な住居や生活インフラ、医療へのアクセスを断たれた状況に置かれている。2025年1月のガザ地区での停戦後、イスラエルは占領下にある西岸地区で「鉄の壁」作戦を開始。多数のパレスチナ人が移動を強いられ、極めて不安定な状況に追い込まれた。

国境なき医師団(MSF)は現状を憂慮し、イスラエルによる西岸地区におけるパレスチナ人の強制移動の即時停止、および国際社会による人道援助の拡充を訴える。
4万人超がキャンプから退去を強いられる
MSFのオペレーション・ディレクターであるブリス・デルビンヌは、「このような規模での強制移動やキャンプの破壊は、ここ数十年間見られなかったことです。イスラエル軍がキャンプを立ち入り禁止にして家屋やインフラを破壊したため、人びとは帰る家を失い、キャンプは廃墟と化しました」と話す。

2023年10月にガザで紛争が激化して以来、西岸地区では、イスラエル軍によるパレスチナ人に対する過激な暴力行為が増加した。MSFは2月に発表した報告書『人びとへの危害と医療破壊』でこの点を強調して伝えている。世界保健機関(WHO)によると、西岸地区におけるパレスチナ人の死者は合計930人に上り、うち187人は子どもであった。

現地にいるMSFのチームは、医療へのアクセスが著しく妨げられたことを確認。イスラエルによる医療従事者と患者に対する組織的な弾圧も目撃した。ガザ地区での停戦とイスラエルの「鉄の壁」作戦以来、事態はさらに悪化。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、西岸地区北部の三大難民キャンプであるジェニン、トゥルカレム、ヌールシャムスは事実上無人となり、4万人超のパレスチナ人が強制退去させられた。

ヌールシャムス難民キャンプから退避したMSFの患者であるイッサムさん(55歳)は「イスラエル軍が私たちの家を襲撃し、退避するよう命じました。私たちは何も持ち出すことを許されず、重要な書類さえも持ち出せませんでした。私たちが受けたのは『出て行け』という警告だけでした。出ていくのは苦しいことで、言葉にできません。誰もが心の奥に深い痛みを抱えています。見てください。皆目に涙を浮かべています。でも私も含めてこらえているのです」と語った。

西岸地区ジェニンのMSF診療所で診察を受ける患者=2025年3月5日 (C) Oday Alshobaki/MSF

悪化し続ける西岸地区の人道状況
侵攻の激しさや先の見えない移動のため、多くの人びとがストレスや不安、うつを抱え、心の健康被害は深刻なものとなっている。MSFの地域健康教育の担当者であるムハンマド(30歳)は「皆自分の家で何が起こったのかもわからないまま、多くのものを失っています。生きる目的すら失っているのです」と言う。
「ドローンが住宅の上空を飛び、住民に避難するよう命じていました。これまでも壊されてきましたが、ここまでひどいのは初めてです」とジェニン難民キャンプの住民アブデルさんは話す。

MSFはこれまで3つの難民キャンプで援助活動を行ってきたが、安全面のリスクや人びとの避難により、活動内容を変更。現在は毎日トゥルカレムとジェニンで移動診療を行い、避難民に医療を提供している。治療するのは、薬の入手が困難なために悪化した糖尿病や高血圧などの慢性疾患、呼吸器感染症、骨格筋疾患などの患者たちだ。

また、何も持たず自宅を追われた人びとを支援するため、衛生用品キットや食料を配布。さらに、ジェニン地区の主要病院であるハリル・スレイマン病院で給水を行い、軍事作戦による被害で頻発する水不足を補ってきた。

MSFは緊急ニーズに対応し続けているが、強制移動の規模の大きさに対して国際社会による対応は足りず、西岸地区の人道状況は悪化の一途をたどっている。

衛生用品の提供にあたるMSFスタッフ=2025年3月5日 (C) Oday Alshobaki/MSF

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