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木質資源由来硫酸化ヘミセルロースが乾燥肌の症状とかゆみを改善する

学校法人 順天堂
― これまで捨てられていた物質が医薬品に?! ―

順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センターの外山扇雅 特任助教、高森建二 特任教授ら、及び王子ホールディングス株式会社(代表取締役社長:磯野裕之、本社:東京都中央区)のグループ会社である王子ファーマ株式会社(代表取締役社長:石川稿太郎、本社:東京都中央区)との共同研究グループは、木質資源由来の硫酸化ヘミセルロース*1(開発コード:OJI-204)が乾燥肌の改善と自発的*2及び機械的かゆみ*3を改善することを解明しました。本成果は、乾燥肌モデルマウスを用いて、OJI-204の効能を評価しました。OJI-204はかゆみを伴う疾患に共通した病態である乾燥肌の症状やかゆみを改善したことから、ヘパリン類似物質の代替となる植物由来の保湿剤として役立つ可能性を示唆しています。今後OJI-204 は、ヘパリン類似体の代替として将来的に臨床応用され、乾燥肌の保湿やかゆみの抑制に役立つことが期待されます。本論文はBiomedicines誌に2025年2月21日付で公開されました。
本研究成果のポイント
- 硫酸化ヘミセルロース(OJI-204)が乾燥肌モデルマウスのバリア機能を改善
- OJI-204が乾燥肌モデルマウスの自発的及び機械的かゆみも軽減
- OJI-204が乾燥肌のかゆみの新規治療薬となる可能性が示唆された

背景
ヘパリン類似物質*4は保湿作用や血液循環促進作用、抗炎症作用、血液凝固阻止作用があり、様々な疾患の治療に使われます。ヘパリン類似物質は、ブタやウシなどの家畜から作られていますが、人畜共通感染症のリスク低減、環境負荷の低減、トレーサビリティ向上などの理由から、今後は植物由来原料が動物由来原料に代わると予想されています。王子ファーマでは製紙の知見を生かしながら、製薬に木質資源を役立てる研究・開発を行っています。木材の成分比率は、約50%がセルロース、約25%がヘミセルロースです(残りの約25%はリグニンなど)。セルロースは、紙や繊維の原材料として、広く活用されてきましたが、ヘミセルロースは工場のボイラーで燃料として燃やされるだけでした。王子ファーマはヘミセルロースの可能性に着目し、未来へ向けた医薬品開発を進めており、その過程でOJI-204の合成に成功しました。ヘパリン類似物質と同様に、ペントサンポリ硫酸ナトリウム*5を含む硫酸化ヘミセルロースは硫酸化多糖類ファミリーに属する化合物であり、抗凝固作用と抗炎症作用を示すことが報告されています。そこで本研究では、乾燥肌モデルマウスを用いて、皮膚バリア機能及びかゆみに対する効能を調べました。
内容
本研究では、アセトン‐エーテル混合溶液と水を1日2回, 7日間にわたって反復塗布(AEW処置)することにより乾燥肌モデルを作製しました。この時、溶媒及び0.3% ヘパリン類似物質、3%及び10% OJI-204を1日2回塗布しました。皮膚の乾燥度合いを経時的に記録し、AEW処置前日及び4日目、7日目に皮膚バリア機能の指標である経皮水分蒸散量(TEWL)*6と角層水分量(SC Hydration)*7を測定しました。また、AEW処置前日及び7日目に自発的かゆみ行動を、8日目に機械的かゆみ過敏度合いを測定しました。その結果、溶媒群は皮膚の乾燥度合いが経時的に高くなるのに対し、0.3% ヘパリン類似物質(陽性コントロール群)、3%及び10% OJI-204群は有意に乾燥度合いが軽減し、溶媒群と比較してTEWLも有意に低下しました。さらに3% OJI-204群は溶媒群と比較して有意に自発的かゆみ行動を抑制しました。また、OJI-204群は溶媒群と比較して有意に機械的かゆみ過敏も抑制しました。
以上の結果より、OJI-204は乾燥肌において保湿効果を示し、自発的・機械的かゆみを改善することが明らかとなり、ヘパリン類似物質の代替となり得ることが示唆されました。
今後の展開
今回研究グループは、アトピー性皮膚炎などの病態形成に重要な乾燥肌のモデルマウスにおいて、OJI-204がヘパリン類似物質と同等もしくはそれ以上に保湿効果があることを発見したとともに、自発的かゆみ及び機械的かゆみ過敏の抑制効果があることを明らかにしました。これまでの研究から、保湿によって乾燥肌のかゆみを含めた症状を改善できることが分かっており、今回もOJI-204の保湿効果によってかゆみを抑制できたと考えられます。
本結果は、これまで燃料として燃やされる以外に用途がなかった物質を医薬品へと役立てることができることに加え、木質由来であることからウイルス感染リスクの低減や宗教的な使用制限に対する配慮が可能となり、現在の主流である豚由来のヘパリン類似物質の代替として広く使用されることが期待され、SDGs達成への一歩と繋がります。

図1:バリア機能の評価

乾燥肌モデルマウスにおいて、溶媒群(赤)と比較して有意にOJI-204群(黒及び青)では皮膚バリア機能が改善した。乾燥肌モデルマウス誘導開始3日目においては、ヘパリン類似物質群(緑)よりも3% OJI-204群は有意に経皮水分蒸散量(TEWL)が低下した。


図2:自発的及び機械的かゆみ行動回数の評価

3% OJI-204群は溶媒群と比較して有意に自発的かゆみ行動を抑制した(左図)。また、OJI-204群は溶媒群と比較して有意に機械的かゆみ過敏を抑制した。
用語解説
*1 硫酸化ヘミセルロース:硫酸化多糖類ファミリーに属する化合物。抗凝固作用及び抗炎症作用を示すことが知られている。
*2 自発的かゆみ:引っ掻きたくなるような不快な感覚。
*3 機械的かゆみ:通常ではかゆみを引き起こさない程度の弱い触刺激(機械刺激)でもかゆみが引き起こされる現象。機械的アロネーシスとも呼ばれている。
*4 ヘパリン類似物質:ヘパリンと似た化学構造をもつ物質で、抗凝固作用や、作用保湿、血行促進作用、抗炎症作用がある。
*5 ペントサンポリ硫酸ナトリウム:木質成分の1つであるヘミセルロースを原料とする医薬品の有効成分。
*6 経表皮水分蒸散量(TEWL):皮膚表面からの水分蒸発量のこと。皮膚バリア機能が破綻すると高値になる。
*7 角層水分量(SC Hydration):皮膚の最も外側にある角層に含まれる水分量のこと。皮膚バリア機能が破綻すると低値になる。
研究者のコメント
● 本研究では、これまで燃料として燃やされる以外に用途がなかった硫酸化ヘミセルロースを医薬品として役立てることができる可能性を示したものです。
● 現在保湿剤として広く利用されている動物由来ヘパリン類似物質よりもOJI-204の方が保湿効果及びかゆみ予防効果があることが示唆されました。
● 以上のことから、SDGsの観点からも、OJI-204が今後広く利用されることを期待します。

原著論文
本研究はBiomedicines誌のオンライン版に2025年2月21日付で公開されました。
タイトル: Topical Application of OJI-204 Alleviates Skin Dryness, Dry Skin-Induced Itch, and Mechanical Alloknesis.
タイトル(日本語訳): OJI-204塗布によって乾燥肌の症状及びそれに伴う自発的かゆみと機械的かゆみを軽減する
著者:Sumika Toyama, Tomoya Nakamura, Mitsutoshi Tominaga, Kenji Takamori
著者(日本語表記): 外山扇雅1)、中村知矢1)2)、冨永光俊1)、高森建二1)3)
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センター、2)王子ファーマ株式会社、3)順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科
DOI: 10.3390/biomedicines13030556

本研究はJSPS科研費20H03568の支援を受け、実施されました。また、順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所 順天堂かゆみ研究センターと王子ファーマ株式会社との共同研究費の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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