医学トップの視座

世界的な研究者を輩出
基礎から臨床への橋渡し目指す―熊本大学医学部

 ◇スペシャリストが手厚く指導

 医学部卒業後に同大学で研修を受けるメリットは、診療科が27に細分化され、スペシャリストが責任をもって各自の分野を指導するという点にある。

 「例えば、外科領域は、心臓血管外科、呼吸器外科、消化器外科、乳腺・内分泌外科、小児外科、移植外科、泌尿器科、婦人科の八つに分かれ、それぞれに教授がいます」。いくつもの専門分野が合わさった診療科の場合、すべての領域に詳しい指導医がいるとは限らない。細分化されることで、需要の多い分野も比較的マイナーで患者数が少ない分野も、均等に学ぶチャンスがある。

 卒業生のうち、同大学で初期研修を受けるのは半数以下だが、結果的に卒業生の6~7割は県内の医療に貢献している。「まさにサケマス現象。他大学で初期研修した熊本出身の人が後期研修で戻ってきます」

インタビューに応える安東由喜雄医学部長

 ◇臨床と研究の二刀流

 安東医学部長は別府市の出身。幼少期によく訪れた温泉で、温泉療養に来た体の不自由な人たちと身近に接することがよくあった。家の近くには、身体障害者が働く作業所「太陽の家」があった。「車いすを押して一生懸命テレビやラジオを組み立てる姿をずっと見ていて、何とかならないものかと思っていました」

 ある日、作業所の近くを歩いていた時、雨が降ってきたので、車いすの人に傘をさしかけた。ぬれてしまうので、ごく自然な行為だった。すると、その人は怒ったように『いらん』と傘を押しのけた。「患者というのは体だけでなく心も病んでしまうんだなと感じる原体験になりました」。病気を治すだけでなく、心に寄り添うことの大切さを身に染みて感じたという。

 母親は「勉強こそが人生。これからは世界にはばたく人間にならんといけん」という考えだった。小学校1年生からラジオ英会話を聞かせ、いい英語の先生がいると聞けば、電車を乗り継いでもそこに通わされたという。病院薬剤師として働いていた父親の勧めもあって、医師への道を選んだ。

 熊本大学医学部に入学、異常たんぱく質がさまざまな臓器に沈着して機能障害をおこす病気「アミロイドーシス」の研究者である神経内科の荒木淑郎教授の講義に感動し、研究者の道へ。「大学院で4年間、基礎研究に没頭しました。基礎をどっぷり研究したから病気のことがよく分かる。文献を読んだだけでは砂上の楼閣のようなもの。必ず乾いて倒れます。

 安東医学部長の研究テーマは、熊本県北部の荒尾市に患者が集中する家族性アミロイドポリニューロパチーという遺伝病だ。「アミロイドというたんぱくが内臓や末梢(まっしょう)神経にたまって機能障害を起こす病気です。考えてみると、脳にアミロイドがたまるのがアルツハイマー。一つの病気の治療法が他の病気にもつながるかもしれない」

 基礎研究のバックグラウンドがあれば、新たな治療法の発見にも貢献できる可能性がある。それが基礎と臨床を橋渡しするトランスレーショナルリサーチの醍醐味(だいごみ)でもある。

熊本大学医学部

 ◇AI時代に必要とされるものは?

 「医者の仕事は、これからどんどん難しくなっていくと思いますね。知識、技能が高度化して、覚えることが指数関数的に増えてきますから」

 今後の医療を考えた時、避けて通れないのがAIの導入だ。すでに画像診断や臨床病理にAIを導入した大学もあるという。「いかにAIを取り入れながら、患者さんに寄り添うような医療が展開できるかというのが本質だと思います。心の部分にAIを使うようになったら、おしまいです。それ以外は、かなりAIが押し寄せてくる。そうすると、なおさら心の部分の教育が必要になってきます」

 団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題は、医療にも多大なる影響をもたらすと予想されている。医学部卒業後の進路を考える際には、こうした時代の流れも視野に入れておく必要がある。「医師は研究者にもなれるし、地域医療もできる、国連にだって入れる。多様性を見据えた上で自分に合った道を選択してほしい。そのための6年間でもあるのです」

(中山あゆみ)

【熊本大学医学部の沿革】
1756年 肥後第6代藩主細川重賢、医学寮、再春館を創設
1896年 県の補助を受け、私立熊本医学校を創設
1922年 熊本県立熊本医科大学となる
  29年 官立熊本医科大学に移管される
  49年 熊本大学医学部及び付属病院となる
  55年 熊本大学大学院医学研究科を設置
  66年 付属中毒研究施設を設置
  73年 付属免疫医学研究施設を設置
  81年 付属動物実験施設を設置
  82年 付属中毒研究施設と付属免疫医学研究施設を統合し、付属免疫医学研究施設を改組
  84年 付属遺伝医学研究施設を設置
  92年 付属免疫医学研究施設及び付属遺伝医学研究施設を廃止し、付属遺伝発生医学研究施設を設置
  97年 熊本大学エイズ学研究センターを設置
      付属動物実験施設を廃止し、熊本大学動物資源開発研究センターを設置
2000年 付属遺伝医学研究施設を廃止し、熊本大学発生医学研究センターを設置
  02年 医学研究科医科学専攻(修士課程)を設置
  03年 大学院医学研究科を廃止し、大学院医学教育部を設置
      医学部保健学科設置

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