医学トップの視座

世界的な研究者を輩出
基礎から臨床への橋渡し目指す―熊本大学医学部

 熊本大学医学部は歴史をさかのぼると、1756年の医学寮「再春館」の創設に始まる。細菌学者で慶応義塾大学医学部を創設した北里柴三郎氏をはじめ、世界的な研究者を輩出してきた。全国の医療機関で活躍する臨床医も1万人を超える。こうした歴史と伝統を受け継ぎ、専門医志向が主流となる中でも、基礎研究の成果を臨床に生かすトランスレーショナルリサーチに力を入れている。安東由喜雄医学部長(神経内科分野教授)は、「こんな研究をして世界に羽ばたきたい、へき地医療で患者さんを助けたいなど、医学・医療に貢献しようという大望をもった学生にぜひ来てほしい」と話す。

学内共同教育研究施設「エイズ学研究センター」

 ◇長いスパンで研究に携わる環境

 熊本大学医学部医学科の特徴を一言で表すなら、「基礎医学を中心に臨床医学に還元していくトランスレーショナルリサーチがキーワードです」と安東医学部長。日本の大学では初となるエイズに特化した研究センターが設立され、文部科学省が世界水準の優れた研究活動を行う大学を支援するリサーチユニバーシティ22校にも選ばれている。

 その方針はカリキュラムにも反映され、1年次に行われる最新医学セミナーでは、特に活躍が目覚ましい研究室に半年間にわたって週に1回訪問し、最新の医学研究に触れる機会を設けている。3年次に入ると夏までの3カ月間、「基礎演習」と称して基礎医学研究室に学生を配属する。これは、研修医になったあとも研究を継続できるよう独自に構築した「柴三郎プログラム」への導入と位置づけられている。

 「最近は専門医の資格取得を優先する人が多くなり、大学院に進み研究に携わる人が減ってしまいました。専門医を目指しながらでも、研究ができる二刀流を背負わせようと考え出したものです」

 研究を奨励するために、高校生が研究に参加できる「柴三郎ジュニア」というプログラムもあるし、在学中に柴三郎プログラムの先取り履修をする「プレ柴三郎コース」もある。このように長いスパンで研究に携われる環境を整えた。特に「柴三郎ジュニア」コースでは「学校帰りの時間を使って研究に参加してもらっています。その後、本学医学部に入学して、実際に論文に名前を連ねた人もいます」

 研究に携わる人材が減ってしまえば、日本の医学水準は世界に後れをとってしまう。その危機感と、多くの研究者を育んできた歴史と伝統に対するプライドがある。

熊本大学医学部

 ◇求む。大望のある学生

 しかし、伝統の継承はたやすい道ではない。

 「最近は小さくまとまった学生が多いのが残念です。こんな研究をして世界に羽ばたきたいとか、へき地診療で患者さんを助けたいとか、大望のある人、アンビション(大志)をもった学生に入学してほしい」

 入学試験の面接で学生たちと接していると、地域医療枠で応募してきた学生ですら、なぜ地域枠で受験したのかを明確に説明できない学生が多いという。「自分の生まれ育った地域の医療に貢献するために頑張りたいという純朴な学生もいますが、ごくまれです」と強い危機感を抱く。

 安東医学部長は、学生が人間形成に費やす時間を持てない現状にも危機感を募らせる。医学部受験で猛勉強し、入学後の学習量も増加の一途で、学生生活に余裕がないためだ。「僕らの時代、医学部の2年間は他の学部の学生と一緒に授業を受け、青春を謳歌(おうか)するだけのゆとりがあった。今は覚えることが何倍も増えた。勉強に追われ、いったいどこで人間形成をしていくのか、とても不安です」

 しかし、医学が進歩すれば学習内容はおのずと増えていく。学生たちはいったいどうすればよいのだろう。

 「映画を見ることをお勧めします。読書をする時間がなくても、週に2時間がとれない人はまずいない。DVDを借りてくれば食事をしながら見ることもできる」

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