治療・予防

子どもの幻聴は心が発するサイン
傾聴と見守りが自殺抑止にも

 日本では、10~14歳の子どもの死因の第2位は自殺だ。自ら命を絶つ子どもの低年齢化が問題視される中、新たな自殺リスクとして「幻聴体験」が注目されている。子どもの幻聴体験と自殺企図(自殺行動を起こすこと)リスクとの関連について研究している横浜市立大学付属病院(横浜市)児童精神科外来医長の藤田純一医師に話を聞いた。

子どもの幻聴体験には、慌てず耳を傾けてあげて

子どもの幻聴体験には、慌てず耳を傾けてあげて

 ▽自殺企図が3.4倍

 10代前半の子どもたちが自ら命を絶つ背景には虐待、家庭内不和、親の離婚、いじめ、学業不振といった原因が複数存在するといわれる。一般には、持続的に大きなストレスがかかると心理的な視野狭窄(きょうさく)に陥ることで抑うつ状態となり、自殺行動の引き金になると考えられている。

 しかし、藤田医師らが同病院精神科外来の初診患者(10~15歳)608人を対象に行った研究では、自殺念慮(死にたい気持ち)があると答えた188人のうち、幻聴体験がある子どもはない子どもに比べ、自殺企図の経験が3.4倍と高かった。藤田医師は「幻聴体験は、自殺念慮を抱く子どもの自殺企図を後押しする可能性があります。子どもの抑うつ症状だけでなく、幻聴体験にも注意を払うことが重要です」と指摘する。

 ▽幻聴の種類を見極めて

 だが、幻聴体験があるからといって、すぐに自殺企図リスクに結びつけるのは早計なようだ。藤田医師は「矛盾するように思われるかもしれませんが、実は幻聴は子どもにはそれほど珍しい体験ではありません」と説明する。幻聴には主に、〔1〕自分の名前が呼ばれるなど普通の幻聴〔2〕「頑張れ」「やればできるよ」など応援してくれる良い幻聴〔3〕「死ね」「君は誰にも求められていない」など攻撃または批判する悪い幻聴―の3種類がある。子どもは、いわゆるお化けなど目に見えない非科学的なものの存在を信じるように、幻視や幻聴との親和性が高いのだという。

 藤田医師は「子どもに幻聴があったとしても、慌てる必要はありません。心が発する何らかのサインと捉え、大人は『幻聴は病気ではないから、聞こえたらいつでも相談しなさい』と伝えてあげるとよいでしょう。自殺念慮のある子どもでも、普通の幻聴や良い幻聴なら様子を見るにとどめ、悪い幻聴の場合には注意深く内容を聞き、生活に支障を来すようなら医療機関に相談してください」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)


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