前立腺がんの放射線療法に新技法
仕事とがん治療を両立
前立腺がんは、高齢化や食生活の欧米化を背景に患者数が急増している。手術支援ロボットによる手術が注目されるほか、2018年6月には、放射線療法をより安全かつ効果的に行えるハイドロゲルスペーサーという新たな方法が保険適用となるなど、治療の選択肢は増えている。東京大学医学部付属病院放射線治療部門の中川恵一部門長は「新技法による放射線治療は副作用の心配が少なく、外来で行えます。患者の負担は軽く、仕事との両立も可能です。これからの時代、ますます重要な治療選択肢になるでしょう」と話す。
前立腺がんの治療にはさまざまな選択肢が。医師に相談を
▽直腸のダメージを防ぐ
前立腺がんは、50歳以上の男性に多く発生し、将来的には男性で最も多いがんになると予測されている。治療法は、進行の程度やリスク分類によって異なり、転移がなければ手術、放射線治療、ホルモン療法が選択肢となる。ごく早期で低リスクの場合は、すぐに治療せず経過を見る場合もある。
放射線治療は、局所麻酔と鎮静薬の使用のみで行えるため、外来での治療が可能だ。ハイドロゲルスペーサー法は、直腸と前立腺との間に特殊なゲルを注入し、放射線照射による直腸へのダメージを防ぐ壁(スペース)を作ってから行う放射線治療だ。
前立腺のみに集中的に放射線を照射するので、従来法で懸念されていた周囲の組織へのダメージを回避できる。そのため、より強い線量の照射が可能となり、治療での通院回数が少なくて済む。現在、全国で80施設、2800人以上に実施されており、東大病院では17年2月~18年7月に40人に行われたという。
「日本のがん治療は手術が主流ですが、放射線治療でも副作用がほとんどなく、安全に少ない回数でがんを完治させる技術が進んでいます」と中川部門長は説明する。
▽放射線治療も選択肢に
そもそも、放射線でなぜがん細胞が死滅するのだろうか。中川部門長によると、がん細胞は自分の細胞が変化したもので、異物性が少ないため免疫機能が作動しにくいが、放射線を照射すると、がん細胞の性質がわずかに変化して、免疫細胞が異物と認識し攻撃するようになるのだという。
中川部門長は「新技法による前立腺がんの放射線治療は、従来の放射線治療で問題だった直腸出血などの副作用が少なく、性機能障害や排尿障害などの後遺症の発生率も低い、人に優しい治療法です。日本では放射線腫瘍医の数が少ないこともあり、患者に放射線治療の情報が十分に伝わっていません。前立腺がんと診断されたら、放射線科の医師にも相談してみてください」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)
(2019/12/06 07:00)