視細胞侵す難病―網膜色素変性症
進行遅らせる治療法も 京都大学医学部付属病院眼科特定准教授 池田華子医師
視野が狭くなる、暗い所で極端に視力が落ちるなどの症状が表れる網膜色素変性症は、厚生労働省により難病に指定されている。有効な治療法が見つからない中、京都大学医学部付属病院眼科特定准教授の池田華子医師らは、新たな治療の開発に向けて研究を続けている。
視野が狭くなったり、暗い場所で物が見えづらくなったりする
▽遺伝子の異常が原因
網膜色素変性症は、眼球の底部に広がる網膜の視細胞や、その外側にある網膜色素上皮細胞が破壊される病気だ。2種類ある視細胞のうち、主に暗い所での物の見え方や視野に関係する杆体(かんたい)細胞が最初に損なわれる。
そのため、暗い所で物が見えづらくなる夜盲や、視野が狭くなる視野狭窄(きょうさく)などの症状が表れる。
人とよくぶつかる、落とした物を探すのに時間がかかるなどの自覚症状から視野狭窄に気付くことがある。進行すると、視野がおよそ5度にまで狭まる場合もある。
これは、体から30センチ離した500円玉程度の範囲しか見えていないことを意味する。網膜色素上皮細胞もやがて破壊され、強烈にまぶしさを感じる、視力が著しく低下して、眼鏡を掛けても視力が0.1以下になるといった症状が表れることもあるが、完全に失明に至るケースはまれだという。
網膜色素変性症の発症頻度は、4000~8000人に1人と言われている。主に20~40代で発症し、ゆっくりと進行していく。「原因は、視細胞や網膜色素上皮細胞で働く遺伝子の異常とされています。これまでに60種類以上の原因遺伝子が特定されていますが、すべての原因遺伝子が特定されたわけではありません」と池田医師は説明する。
▽患者対象の研究が進行
網膜色素変性症が疑われる場合は詳しい検査を行い、治療が必要と診断されれば、ヘレニエンという薬を内服することがある。しかし、視野狭窄などの症状改善が期待できるだけで、網膜の機能を回復し、病気の進行を止める治療法ではない。
池田医師らは、網膜色素変性症により破壊される患者の視細胞を保護することで、病気の進行を食い止める治療法の開発に着手。2019年3月から今年末まで、70人の患者を対象とした研究を行っている。
「マウスの実験により、肝硬変で使われている分岐鎖アミノ酸という薬に、視細胞を保護する作用があることが明らかになりました」。網膜色素変性症のマウスに分岐鎖アミノ酸製剤を投与したところ、視細胞の破壊が抑制され、病状の進行を遅らせることに成功したという。病気が進行した状態でも有効であることが判明している。
池田医師は「今回の研究で、分岐鎖アミノ酸製剤の人への効果が明らかになれば、新たな治療につながる可能性があります」と話している。(メディカルトリビューン=時事)
(2020/07/16 07:00)