特集

日本における不妊症患者支援政策小史(上)
不妊治療助成の経緯と保険適用に向けた検討状況 厚生労働省子ども家庭局母子保健課長 小林 秀幸


 (3)21年の拡充

 菅内閣の方針として、不妊治療への保険適用の実現が掲げられ、適用までの間は、現行の助成措置を大幅に拡充することとされた。厚労省では、20年10月から実施した実態調査の結果も踏まえ、保険適用への移行も見据えつつ、20年度第3次補正予算を財源として、21年1月から次のように助成内容を拡充した。

 ①事実婚の追加

 04年度の制度創設時から、対象者を法律上の婚姻をしている夫婦としてきた。一部の自治体では、独自の上乗せ事業として事実婚のカップルも対象としている例があるが、今回の制度拡充に当たっては、事実婚を対象に加えるかどうかが論点の一つとなった。

 子どもを望み、不妊に悩むという点で事実婚と法律婚とで変わりないこと、公的年金の第3号被保険者制度や健康保険の扶養認定等では、法律婚と事実婚を区別していないことなどから、21年からは事実婚も助成の対象に含むこととなった。

 事実婚のカップルから助成の申請を受ける際には、事実上の夫婦関係であることを確認するため、両人の戸籍謄本、住民票、事実婚関係に関する申立書の提出を求めることとし、また、治療の結果、出生した子について認知を行う意向があることを確認することとしている。

 ②助成回数の見直し

 助成回数については、13年の検討会での議論を基本的には踏襲しつつ、ARTにより出生に至った患者については、次回もARTにより挙児に至る確率が高いと考えられることから、出生ごとに回数制限をリセットし、従来の「生涯6回」から「子ども1人当たり6回」に改められた。

 ③所得制限の撤廃

 所得制限は07年度から730万円に設定されてきた。この数値の根拠は、妻の年齢が25歳から49歳までの世帯(夫婦のみの世帯または夫婦と18歳未満の未婚の子1人で構成する世帯に限る)の90%が不妊治療を受けようとする際に助成対象となるよう、04年度の国民基礎調査における夫婦合算の世帯収入のデータを基に算出されたものである。

 医療技術の高度化に伴い、ARTの費用が高額化する中で、従来、所得制限により対象外であった不妊患者からも助成を望む意見が寄せられてきた。保険診療においては、保険原理に照らし所得制限という考え方はなじむものではなく、保険適用への移行を見据え、21年に所得制限は撤廃された。

 ④助成額の見直し

 従来は、1回15万円、初回のみ30万円が助成上限であったが、20年秋に実施された調査の結果、凍結胚移植1サイクルの費用の中央値は43万~58万円であったことを踏まえ、21年には2回目以降も含め、すべて30万円までに増額された。採卵を伴わない凍結胚移植の場合も、1回7.5万円から10万円に引き上げられた。

3.22年度からの保険適用に向けた検討

 (1)保険適用に向けた工程

 20年12月15日閣議決定された「全世代型社会保障改革の方針」において、「子供を持ちたいという方々の気持ちに寄り添い、不妊治療への保険適用を早急に実現する。具体的には21年度中に詳細を決定し、22年度当初から保険適用を実施することとし、工程表に基づき、保険適用までの作業を進める」とされた。

 具体的な工程として、関係学会において不妊治療に係る診療ガイドラインを21年夏頃をめどに策定していただき、当該ガイドラインを踏まえ中医協で議論を行い、年明けに保険適用を決定。併せてオプション的な処置などで直ちに保険適用に至らないものについては、例えばエビデンスを集積しながら保険適用を目指す「先進医療」などの保険外併用を活用することにより、できるだけ広く実施を可能とするという方針が示された。

 (2)生殖医療ガイドライン

 厚生労働科学研究費補助金事業により、東京大学の大須賀穣教授を中心とする研究班において、20年の秋から、現時点における不妊治療に関する医学的エビデンスと国内の診療実態等を踏まえ、診療・治療における適正で標準的な指針を示すことを目的とする検討が行われ、ガイドラインの原案が策定された。日本生殖医学会においては、会員や関係学会等からの意見も踏まえて原案を修正し、21年6月23日に「生殖医療ガイドライン」の概要版が公表された。

 このガイドラインにおいては、不妊治療に関する40の論点(クリニカル・クエスチョン)を設定し、専門家による医学論文等の網羅的な評価・分析を行い、それぞれの検査や薬剤、手技等の推奨度について、A(強く勧められる)、B(勧められる)、C(考慮される)の3段階に分類されている。

 (3)今後の検討プロセス

 生殖医療ガイドラインを踏まえ、今後、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関、以下、「中医協」)において、保険適用に向けて具体的な検討が進められていくことになるが、基本的には、有効性・安全性等が確認された検査や治療法については保険適用される。一方、有効性・安全性等の知見が現時点で不十分であり、引き続き知見の集積が必要とされたものは、保険外併用療養費制度(先進医療等)の活用が想定される。

 なお、現在自由診療として実施されている体外受精の診療現場では、卵巣刺激や排卵抑制などのため薬事承認されていない、または適用外の医薬品が少なからず使用されている実情がある。これら未承認医薬品が、保険適用に伴って使用が制限されるようなことがあれば、結果的に治療成績が低下するのではないかといった懸念が不妊クリニックの関係者などから寄せられている。

 この点については、未承認医薬品であってもガイドラインで推奨されたものについては、有効性・安全性等を確認した上で、「公知申請」の手続きを活用して22年4月からの保険適用に間に合うよう薬事承認や公知決定を行うことも想定される。公知申請とは、学会や患者団体等の要望があり、医療上の必要性が確認された医薬品について、海外における承認状況やガイドラインの記載状況等を踏まえ、治験を実施することなく薬事承認を行うスキームである。

 なお、年齢制限や回数制限、実施医療機関の施設要件等の条件についても、現行の助成制度における取り扱いや、生殖医療ガイドラインの内容等を踏まえつつ、今後、中医協において具体的な検討が行われることになる。


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