特集

日本における不妊症患者支援政策小史(上)
不妊治療助成の経緯と保険適用に向けた検討状況 厚生労働省子ども家庭局母子保健課長 小林 秀幸


 (2)16年度の制度改正

 04年度の制度創設時点では年間助成件数は1万7656件であったが、制度の充実とともに助成件数年々は急増し、15年に年間16万件を超えるに至った。

 このような中、厚労省においては、13年に「不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会」を開催し、より安心・安全な妊娠・出産に資する観点から、より適切な助成制度の在り方等について検討を行った。検討会報告書を踏まえ、16年度からは次の通りに助成内容が見直された。

  ①対象年齢

 ARTによる生産分娩(ぶんべん)率(1回の治療で出生に至る確率)は、32歳くらいまではおおむね5回に1回の割合であるが、30歳半ば以降徐々に低下し、39歳では10回に1回、43歳では30~50回に1回と大幅に低下する(表3)。また、年齢が高くなるほど流産・死産しやすくなるほか、産科合併症などで母親や子どもの健康を害するリスクも高くなる傾向がある。

 このため検討会では、リスクが相対的に低い年齢で治療を開始することが望ましいとされ、16年度からは43歳未満という年齢制限が設定された。

 ②助成回数・助成期間

 ARTを受けた方の累積分娩割合は、6回までは回数を重ねるごとに明らかに増加する傾向にあるが、6回を超えるとその増加傾向は緩慢となり、分娩に至った方のうち約90%は、6回までの治療で妊娠・出産増加に至っているという研究報告がある。また、年齢階層別にみると40歳以上では、治療回数を重ねても累積分娩割合はほとんど増加しないとも報告されている。

 これらの医学的知見も踏まえ、16年度から通算助成回数については年齢による差を設け、40歳未満で助成を受け始めた場合には通算6回、40歳以上で開始した場合は、通算3回と設定された。一方、治療パターンや夫婦のライフスタイルの多様化、仕事との兼ね合い等、不妊治療に取り組む方にはさまざまなケースがあることなどの事情を踏まえ、通算助成期間は設けないこととした。

 ③助成額

 ここで、16年までの助成額の沿革について触れておく。1998年に実施された患者アンケート調査において、体外受精1回の費用の中央値が30万円であったことも踏まえ、2009年度には、1回の助成額は15万円までと設定された。

 16年1月からは、初回治療の場合のみ助成額が30万円までに増額されるとともに、不妊の原因が男性にあり精子回収手術を実施した場合に、15万円を限度とする助成が盛り込まれた。

 さて、技術革新によりわが国では、受精卵(胚)を一旦凍結し、その後解凍して子宮に戻す(これを「移植」という)「凍結胚移植」が増加してきた。採卵を伴わない凍結胚移植は、採卵から胚移植までを行う場合と比較して安価であることから、負担の公平性を考慮し、13年度から助成額は7.5万円までとされた。


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