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コロナ禍での会話不足、声帯の衰えにご用心
~声を出さないと、誤嚥リスクも上昇~

 新型コロナウイルス感染拡大により、生活様式が一変してから1年余り。リモートワークの増加で運動不足を気にする人は多いが、外出しないことで他人との交流が減り、会話が減っていることは見逃されがちだ。声を出す機会が減ると、喉の声帯が衰え、声が嗄(か)れたり、発声しにくくなったりすることがある。また、声帯の衰えは誤嚥(ごえん)を誘発し、肺炎にもつながりかねない。声帯の衰えの危険性について、国立病院機構東京医療センターで音声外来を担当する同センター人工臓器・機器開発研究部の角田晃一部長に聞いた。

声帯の萎縮を防ぐための体操の一例。胸を張る瞬間に「いち」と声を出す

声帯の萎縮を防ぐための体操の一例。胸を張る瞬間に「いち」と声を出す

 ▽会話不足で声が出にくくなることも

 新型コロナウイルス流行前と現在では、音声外来を受診する患者に変化が見られるという。

 「以前は、大声や無理な声の出しすぎによる声帯ポリープ声帯結節の割合が高かったのですが、最近は喉を酷使していないのに『声が出ない』『声がかすれる』『以前と声質が変わった』という方の受診が増えています」と角田部長は話す。痛みや腫れ、せきなど他の症状がなく、こうした声の変化が表れる場合には、喉頭がんなどの病気が潜んでいる可能性もあるが、昨年からのコロナ禍で増えているのは、発声の機会減少による「声帯の衰え」だ。

 「以前から、リタイア後に話す機会が激減した人が半年~1年以上経過すると、発声に重要な役割を果たす声帯が萎縮して、こうした症状が表れることは知られていました」と、特に仕事をしていた人の場合、毎日会話していた現役時代と比べ、退職後に発声の機会が極端に減ると、症状は出やすくなる。

 声帯は肺につながる気管をふさぐように左右一対あり、声門を構成している。声門は呼吸している間は開いているが、発声の際は閉じて、そこに当たる息(呼気)の振動で声を出すことができる。しかし、老化や声を出す機会が減ると、声帯が痩せて(萎縮)、声門がしっかり閉じなくなる。この症状を「声門閉鎖不全」と呼び、声を出しづらくなる。

 コロナ禍ではリモートワークが増えている。業務上の連絡はメールやチャットだけということになると、独身の1人暮らしであれば、1日誰とも話さないといったこともある。また、1人暮らしの高齢者には、外出自粛で自宅に閉じこもりきりの人も多く、会話不足で声帯の衰えが加齢の影響以上に進んでしまうことが心配されている。

 ▽1人でも発声の習慣化を

 声帯の衰えの影響は発声にとどまらない。人間は食物を飲み込むとき、声門が閉じて気道(気管と肺をつなぐ空気の通り道)をふさぐので、声帯が誤嚥を防ぐ仕組みの一つになっている。声帯が萎縮すれば、誤嚥しかけたときに吐き出す力が弱まるだけでなく、声門にすき間ができれば誤嚥が増え、特に高齢者は誤嚥性肺炎の危険性も高めてしまう。

 自分で声帯の衰えを確認する方法として角田部長が勧めているのは、息を吸って「あー」と声を出して、一息で何秒続くか計ること。年齢を問わず呼吸機能が正常なら、男性で15秒未満、女性は12秒未満で声帯萎縮の可能性があり、10秒以下だと誤嚥のリスクが高いという。

 角田部長は「声帯にも筋肉と同じ筋層があり、それを動かす筋肉も周囲に付いています。適度に使うことで鍛えることができます」と説明し、コロナ禍でも適度な発声を心がけるように推奨している。電話やオンライン通話でも会話はできるが、毎日通話する相手を見つけるのも難しい。1人でも習慣にできることとして、本や新聞の朗読のほかに「テレビ番組に参加しているつもりで話し掛けること」も有効な方法だ。

 「あ~、そうそう」「それは違う」などとテレビに向かって話すことは、普段の会話の状態に近い。

 角田部長は「声を出せなくなる原因として、心因性のものも少なくありません。コロナ禍の不安の中でストレスをためないように、積極的に声を出してみてください」と、発声によるストレス解消の必要性も指摘する。

角田晃一・国立病院機構東京医療センター人工臓器・機器開発研究部長

角田晃一・国立病院機構東京医療センター人工臓器・機器開発研究部長

 ▽簡単にできる誤嚥を防ぐ方法

 一方、飲食の際にむせやすい、飲み込みづらいといった誤嚥に近い症状をすでに感じている場合は、検査のための受診をすべきだが、それと同時に誤嚥を防ぐ日々の対策も必要になる。

 簡単にできる方法として角田部長が勧めるのは、飲食の際は顎を引いて飲み込むこと。顎を引くと喉の位置が引き上がって口元に近づき、誤嚥を起こしにくくなるという。

 「首の長いキリンを含め、動物の喉の位置は口のすぐ近くにあり、誤嚥を起こしづらい構造になっています。人間の喉の位置は会話には適していますが、嚥下のたびに喉を上に持ち上げる動きが必要で、負担が大きいと言えます」

 飲み込むときには顎を胸に近づけるように下を向くことで、喉の挙上(喉を持ち上げる動き)の代用ができる。同様の理由で、ストローを使って顎を引き気味に飲み物を飲むことも勧められる。
 国立病院機構東京医療センターのWEBサイトでは、声帯萎縮のメカニズムや声帯萎縮のチェック法、声帯萎縮を防ぐための体操などを動画で紹介している。

 「健康長寿には喉の健康を保つことも大切です。コロナ禍でも、ぜひご自身やご家族の喉の状態も意識してみてください」と角田部長は喉の健康の重要性を訴えている。(了)

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