治療・予防

目の自己免疫疾患―甲状腺眼症
~バセドウ病などで発症(愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科 柿崎裕彦教授)~

 甲状腺眼症は、バセドウ病やまれに橋本病(慢性甲状腺炎)の患者で発症する目の自己免疫疾患だ。炎症によりさまざまな目の症状が表れる。愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科の柿崎裕彦教授に、甲状腺眼症について聞いた。

眼球突出は甲状腺眼症の症状の一つ(左)。右は正常な目

眼球突出は甲状腺眼症の症状の一つ(左)。右は正常な目

 ▽炎症でドライアイ

 バセドウ病や橋本病は自己免疫疾患の一つで、思春期から閉経前の女性に多く見られる。免疫の異常によって体内で作られた抗体が甲状腺を攻撃することで起こるが、標的となる組織は目の奥にも存在する。

 柿崎教授は「甲状腺眼症の大半はバセドウ病や橋本病の診断と同時期か後に発症し、涙腺の炎症により涙液の分泌が低下してドライアイになります。目の奥の炎症などが起き充血してきます。結膜炎と区別しにくいので注意が必要です」と説明する。

 柿崎教授によると、40歳ぐらいまでの患者では主に目の奥の脂肪の増加により眼球突出や、まぶたが大きく開いた状態になる眼瞼(がんけん)後退となることが多く、それより高齢の層では目を動かす筋肉にも炎症が及び、眼球運動障害や物が二重に見える複視が増えるという。「喫煙は、甲状腺眼症を悪化させる最大の危険因子。まずは禁煙です」

 ▽薬や放射線後に手術

 甲状腺眼症は、容貌の変化、視機能障害などにより日常生活に支障を来す中等症以上に悪化するケースは少ないが、最重症(視神経が圧迫される視神経症、角膜の損傷)まで進行すると失明の危険がある。バセドウ病や橋本病の患者は定期的な受診で、目の症状や奥の炎症の状態に応じた治療を受けることが望ましい。

 緊急性の高い視神経症を除き、中等症以上で炎症のある場合には、ステロイドの点滴投与や放射線療法を行い、炎症が治まったら手術をする。眼球突出には減圧術、眼瞼後退によりまぶたが閉じない兎眼(とがん)にはまぶたを延長する手術、複視には斜視手術が行われる。「減圧術は、眼球が収まっている部分にある骨の一部を取り、スペースを広げる手術で、視機能の回復や整容性に有効です。これで効果が十分でない場合、安全な範囲内で脂肪を取ることもあります」

 柿崎教授は「バセドウ病や橋本病の患者さんで、目の症状に不安があれば、神経眼科や甲状腺眼症を専門とする眼科医を受診してください」とアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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