環境の常在菌が感染
~患者が近年急増―肺MAC症(複十字病院呼吸器センター 森本耕三医長)~
自然や生活環境下の水や土壌などに広く生息する非結核性抗酸菌は、約200種類あるという。その1種であるMAC菌の感染による肺MAC症が、近年急増している。
複十字病院(東京都清瀬市)呼吸器センターの森本耕三医長は「肺MAC症は、長期にわたる経過観察と治療が必要です。病気を十分に理解して治療に臨みましょう」と話す。
5.12 肺MAC症の主な症状
▽中高年で痩せ形の女性
非結核性抗酸菌は、結核菌とらい菌を除く抗酸菌の総称で、この中のアビウム菌とイントラセルラーレ菌の二つをMAC菌と呼ぶ。風呂場や加湿器、水道や貯水槽の給水システム、畑、庭の土など、あらゆる場所に存在するため、どこで感染するかは分からない。人から人への感染は無いとされている。
肺MAC症の初期は無症状で、進行とともにせきやたん、血たん、微熱や体重減少などが起こる。森本医長は「女性に多く、痩せ形、結核の病歴や慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)など肺の病気がある人、ステロイド治療などで免疫が低下している人などに発症しやすい傾向があります」と説明する。中高年以降での発症が目立ち、60~70歳代がピークだという。
▽独断で服薬をやめない
検査では、胸のX線検査に加え、たんの検査、コンピューター断層撮影(CT)検査、採血による抗体検査などを行う。CT検査では、肺に小さな粒がたくさんあり、心臓両脇の気管支の拡張や肺上部の空洞など特徴的な所見がある。
治療期間は1年半以上に及ぶため、進行が認められた場合のみ治療をし、画像所見で症状が落ち着いている場合は経過観察になる。治療は2種類の抗結核薬とマクロライド系の抗菌薬を使用。進行して肺が部分的に壊れ、薬剤の効果が乏しい場合は、手術で切除することもある。
薬を複数使用するのは、効きにくくなる「耐性化」を防ぐため。用法、用量を守った服薬が重要だ。「例えば、エタンブトールという抗結核薬だけをやめてしまうと、肺MAC症に有効なマクロライド系の抗菌薬が効かなくなってしまいます」と森本医長。他の病気の診療時も必ず医師に病名を告げ、お薬手帳を持参することが必要だ。
肺MAC症は再発も少なくない。森本医長は「規則正しい生活とバランスの取れた食事を心掛け、風邪などの感染症予防に努めてください。治療せず経過観察している間も定期的な受診が必要です」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/08/13 05:00)
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