インタビュー

梅毒、尾上泰彦医師に聞く(上)=患者急増、4000症例突破

 梅毒患者が急増している。国立感染症研究所の報告によると、2016年第1~47週(1月4日~11月27日)に梅毒と報告された症例数は4077例で昨年同時期(2328例)の1.8倍。一時減少傾向にあったが10年以降増加傾向に転じた。男性では40~44歳、女性では20~24歳の報告例が最も多い。梅毒が流行している背景などについて、性感染症に詳しいプライベートケアクリニック東京(東京都新宿区)の名誉院長、尾上泰彦氏に聞いた。

 ◇過去の病気、一転再燃

 ―梅毒はいつから始まった病気か。

 尾上 梅毒は、梅毒トレポネーマという病原菌がセックスなどの性的な接触によってうつる感染症。1492年に「新大陸」を発見したコロンブスが、欧州に持ち帰ったため全世界に広まったという説があり、日本でも20年後の1512年に病気についての記録がある。国内では1940年代に報告数が20万例を超えた。死を招くこともある病気として知られたが、抗菌薬であるペニシリンが戦後広く普及。小流行はあったものの、2010年には621例で過去の病気となりつつあった。ところが同年以降は増加傾向が続き、昨年1年間で4518例(速報値)と1974年以来42年ぶりに4000例を超えた。

 ―梅毒の再燃には、どのような理由が考えられるのか。

 尾上 感染経路の大半は性的接触。口腔(こうくう)内に感染していたらキスでもうつる。インターネットやSNSの普及で交遊関係が広がり、性行為を目的として不特定多数と出会うケースが大幅に増えたことが背景にあるとされる。しかし、それなら梅毒以外の性感染症も同じように増えているはず。けれども、そのような結果は報告されていない。プライベートなことだけに調査には限界があり、原因ははっきりと分かっていない。

 ◇無症状でも強い感染力

 ―感染したらすぐに分かるのか。

 尾上 梅毒は症状によって第1期から第4期まで四つのステージに分類される。初期である第1期は接触してから3週間後、3割の人に陰部、口腔内、口唇部などに硬いしこりができる。人によっては股の付け根のリンパ節が腫れることもある。それまでは何の症状も表れない。痛みもかゆみもなく、自然に症状がなくなる。残りの7割の人は無症状なので気付かないことが多い。この時期は感染力が強く、他の人に感染する可能性が高い。知らないうちにパートナーに感染させているケースも多く、これが感染拡大につながっている。さらに妊娠中のパートナーに感染すると、胎盤を通して胎児に感染する。これは「先天梅毒」といって区別され、死産、早産、奇形など、胎児や新生児にさまざまな影響が及ぶ。

 ―それ以降はどういう経過をたどるのか。

 尾上 さらに3カ月放置すると病原体が体中に回り、第2期の症状として体全体や手のひら、足の裏に赤い発疹が出る、あるいは肛門にいぼができる。ほとんどの人はこの段階で異常に気付き、皮膚科で梅毒の診断を受けることが多い。この時点であれば、数週間の抗菌薬の服用で完治する。ただ、かゆみも痛みもないのが特徴で、治療しなくても数日から数週間で発疹は消えるため、ここでも放置されることがある。
 第3期の症状が表れるのは、その数年後。皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがある。皮膚が溶けだし、外見的にもすぐ分かる症状が表れるが、かゆみも痛みもない。また、心臓、血管、脳などの体全体の臓器にさまざまな影響を及ぼし、第4期になると、死の危険性もある重篤な状態となる。現在は、治療のための抗菌薬が普及し、比較的早期から治療を開始する例が多い。第3期、第4期の晩期の梅毒に進行する人はほとんど見られなくなった。(ソーシャライズ社提供)

〔後半に続く〕梅毒、尾上泰彦医師に聞く(下)=感染拡大どう対処する?


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