Dr.純子のメディカルサロン

大事な人を亡くした人にどんな声掛けをすれば?
~グリーフケアを考える~

 大事な人を亡くした人にどんな声を掛けたらいいのか戸惑ってしまうという相談を受けることがあります。「そんなつもりで言ったのではないが、相手を傷つけてしまった」「不用意な一言で気まずい雰囲気になった」という声を聞いたりします。喪失感を抱えている人をサポートしたいと思うなら、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。

(文 海原純子)
グリーフケアの研究会で講演する京井さん

グリーフケアの研究会で講演する京井さん

 ◇喪失感は大きなストレス

 大事な人を亡くすことは大きなストレスになります。悲しみや落胆、後悔、怒り、孤独感などが湧き起こり、ストレス反応として不眠や食欲低下、胃腸障害などさまざまな身体症状が出ることがあります。また、集中力が低下したり現実感がなくなったり、引きこもりがちになったりするケースがあり、こうした反応はグリーフ反応と呼ばれています。この種の症状は異常なことではなく、大事な人を亡くした喪失体験によるものと捉えていただきたいと思います。

 ◇受診が必要な場合も

 グリーフ反応は場合によっては医療につなぐ必要があります。自分も死んでしまいたいという思いが強い場合や、アルコールや睡眠薬などに依存し飲用量が増えている場合などです。さらに、うつ症状が強いケース(不眠や悪夢を見る、食欲の低下や体重減少、気分が落ち込む、だるくて動くのがつらいなどの症状が2週間以上継続する)も精神科や心療内科で相談してください。

 ◇見かけでの判断は禁物

 職場に元気そうに出勤したり、はたから見て以前と変わらずに日常生活を送っていたりすると、周囲の人は「もう大丈夫。立ち直っている」と思いがちです。でも多くの場合、それほど簡単に立ち直ることはできないのです。痛みや喪失感は時間がたって変化はしますが、完全になくなるわけではありません。痛みを抱えながら一生懸命に日常を取り戻そうとしていることを理解する必要があります。

 ◇相手を傷つける行為や言葉

 そういうつもりはないのに相手を傷つけてしまう言葉には次のようなものがあります。
 1.時間が解決しますよ→時間がたって痛みは変化するが、消えはしない
 2.亡くなった方の分も頑張ってください→もう十分頑張っているのに。これ以上無理
 3.早く元気になってください→そんなに簡単に元気になれない
 4.あなたの気持ちは分かります→体験をしていない人に分かるわけはない
 5.押し付け情報→「旅行をするといいですよ」「ダンスをするといいですよ」「マインドフルネスの呼吸がいいですよ」「ヨガを紹介しましょう」など、押し付けるようなアドバイスも相手には迷惑。相手から求められたら情報を提供するというスタンスが大事

「語り合い場」で

「語り合い場」で

 ◇大事なのは自分の気持ちを安心して話せる場

 つらい気持ちを安心して話せる場、そして自分の気持ちに心から共感して理解してくれる人がいることが最大のグリーフケアとなります。大切を人を失った人と接し話し合える場があることが大事なのです。22年前からこうした場をつくり、支援活動をしている山口県のグリーフサポートやまぐち (amebaownd.com)代表で防府市市民活動支援センターセンター長の京井和子さんに話を伺いました。

 京井さんは4歳の娘さんを飲酒運転の犠牲で亡くした際、周囲から掛けられる「頑張って」「大変だったわね」という言葉に「誰にも分かってもらえない」という反発を禁じ得ず、どうしていいか分からなくなったそうです。そんな時に同じ体験をした人たちと出会い、やっと「分かってもらった」と思い、ほっとして人への信頼を取り戻せたといいます。その後、自助グループを立ち上げてグリーフについて学び、グリーフサポートやまぐちとして活動しているそうです。同じ境遇の人、同じ体験をした人と接し、自分の気持ちを安心して話せる、否定されたり不要なアドバイスをされたりせずに話せる場を提供することがグリーフケアの最も重要なポイントなのだと思います。

 日本ではまだグリーフケアという言葉になじみがないかもしれません。しかし、人生で必ず体験する喪失の痛みについて理解しておくことは大事ではないかと思うのです。(了)

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