Dr.純子のメディカルサロン

マグネシウムは足りていますか?
~夏バテ防止のために~

 記録的な暑さが毎日続き、疲れやすく、ぐったりして睡眠も浅いなど、体調不良が気になるとの声を多く聞きます。夏バテ防止や睡眠の質の改善に大事な物質があります。マグネシウムというミネラルです。マグネシウムは他のミネラルよりなじみがないかもしれません。

(文 海原純子)

飲酒はマグネシウムの多い食べ物と一緒に

飲酒はマグネシウムの多い食べ物と一緒に

 ◇汗で排出、摂取量は減少

 マグネシウムは必須ミネラルの一つ。体内では産生できませんが、体内の600種類以上の酵素を活性化させ、糖代謝に関わり、エネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)産生過程に不可欠なミネラルです。ですから、不足するとATP産生が滞り、エネルギー不足で疲れやすくなります。マグネシウムの第一人者である東京慈恵会医科大学の横田邦信客員教授によると、現代人は海水から製塩した天然塩の使用頻度の低下、全粒穀物・野菜・果物の消費量の減少に伴い、食事からの十分なマグネシウム摂取が難しくなってきているそうです。その上、マグネシウムは汗で体外にも出されるので、この夏は排出される量が多く、不足状態になっている可能性があります。

 ◇日常生活のリスク

 マグネシウム不足で誘発されたり悪化したりする病気には糖尿病や心筋梗塞、高血圧などがあります。ここでは夏場の日常生活で起こりやすいリスクについて、横田先生にお伺いしてみました。

 1.筋肉のけいれん、こむら返り
 マグネシウムは細胞膜内外のミネラルのバランスをコントロールしているので、不足すると神経伝達に異常が起きやすく、筋肉のけいれん、こむら返りなどが起きやすくなるとされています。

 2.うつ
 マグネシウムは精神を安定させる働きを持つホルモン「セロトニン」の合成にも関わっているため、不足すれば同ホルモンの合成が阻害される可能性が示唆されています。マグネシウムを多く摂取している人は、摂取量が少ない人よりも抑うつ症状が低いというデータもあります。

 3.疲労回復の遅れ
 ATP産生不足によりエネルギー不足状態に陥り、夏バテのリスクが高くなります。

 ◇不足する原因

 1.強いストレス
 国立健康・栄養研究所にいらした西牟田守氏の研究によると、寒冷ストレスや精神的なストレスが加わった状態では、尿中のマグネシウム排出量が増加するそうです。この夏の高い気温の中で過ごすとストレス感情が強まり、マグネシウム不足が起きるリスクが高いといえるでしょう。時間に追われて仕事が続く方もリスクが高く、注意が必要です。

 2.飲酒
 アルコール摂取も尿からの排出を増加させます。夏場の冷たいビールはおいしいですが、飲酒によりマグネシウム不足を起こしてしまいます。アルコールを分解するときにもマグネシウムが使われるので、お酒を飲む方は豆や豆腐、海産物などで補給を心掛けてください。

 3.塩分の多い加工食品中心の食生活
 粗塩ではなく精製塩を使う機会が増えることで、マグネシウムの摂取量が減少。また、塩分を多く含む加工食品の摂取により、体内からの排出が多くなり、マグネシウム不足が起こりやすくなっています。普段、穀類や玄米、全粒粉を食べる機会が少ない方は不足状態になりやすいといえます。

 4.乳製品の食べ過ぎ
 乳製品はカルシウムが多く含まれるので、積極的に取りたいものです。ただ横田先生によると、カルシウムとマグネシウムの割合を考えて食べないといけないそうです。カルシウムの摂取量ばかりが多くなると、マグネシウムの吸収が妨げられて、二つのミネラルのバランスが崩れてしまうからです。カルシウムとマグネシウムの食事での摂取比率は2対1~1.5 程度がベストと考えられています。そのため、牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品をたくさん摂取している場合は、その分マグネシウムもしっかり補給する必要があるといえるでしょう。例えば、ヨーグルトを食べるときはナッツやキヌア、バナナなどのマグネシウムを含む食品を混ぜるといいでしょう。

 ◇見逃さずに補給を

 マグネシウムは普段、健診などで検査する機会がないため、不足が見逃されやすいミネラルです。日本人は近年、食生活の変化で慢性的な不足状態といえます。調査によると、現在の食事摂取基準(推奨量)に対する充足率は30~49歳の男性で69%と著しく低下しており、1日当たり約130ミリグラム以上、同年齢層の女性でも約80ミリグラム以上不足しているそうです。事態改善のため、少なくとも1日100ミリグラム程度の補給が望ましいということです。不足の解消はそれほど難しくないので、試してみてください。以下に挙げる食品はマグネシウムを多く含みます。

 1.海水から作られた粗塩
 2.のり、ひじきなどの海藻類
 3.ナッツ類
 4.豆腐、納豆などの大豆製品
 5.玄米 
 6.オクラ、ホウレンソウなど緑が濃い野菜類

 ちなみに、夏場にお薦めなのは枝豆やしらすです。枝豆は30グラムで60ミリグラム、しらす干しは大さじ1杯で130ミリグラム、納豆1パックで100ミリグラム、きな粉は大さじ1杯で260ミリグラムのマグネシウムが含まれています。ビールを飲むときは枝豆をおつまみにして海水からできた塩を加えてゆでたり、ヨーグルトにきな粉やナッツ類を混ぜたりするなど、ちょっとした工夫でマグネシウムを補給することが疲労回復に役立ちそうです。

 ◇皮膚からも吸収か

 岐阜薬科大学の研究では、マグネシウムは皮膚からも吸収される可能性があるとされています。確かに、海水を利用したタラソテラピーなどが効果を上げています。エプソムソルト(硫酸マグネシウム)や塩化マグネシウムフレークをお風呂に入れるなどもリラックス効果があり、睡眠の質の向上に役立ちそうです。夏場、お風呂に入ると暑いという場合は足浴などにしてもいいかもしれません。

 残暑が厳しそうな気配です。マグネシウムの補給を忘れないでほしいものです。(了)

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