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失敗を引きずらないための三つのステップ

 失敗すると気分が途端に落ち込み、また次も失敗したという経験がありませんか。失敗しても一度で踏みとどまり、負のスパイラルに巻き込まれないようにしたいものです。嫌な気分を引きずらないためにはメンタル力を身に付けることが必要で、その方法のヒントを最近のスポーツ選手の中にしばしば見つけます。このところの日本選手の活躍には、こうしたメンタル力が影響しているように思えます。

 さかのぼれば、サッカーワールドカップの日本代表がたびたび窮地に追い込まれたものの、嫌なスパイラルに陥らずにいいパフォーマンスをしましたし、野球のワールドカップでも、ホームランを打たれた投手がその後対戦する打者をきちんと打ち取るなど、失敗のショックから即座に気持ちを切り替えるシーンが目立ちました。それがいい結果につながったのは明白で、「失敗してもいいが、引きずらない」ことが大事だといえるでしょう。

(文 海原純子)
柔道の世界選手権女子48キロ級決勝で一本勝ちした角田選手(青い道着)

柔道の世界選手権女子48キロ級決勝で一本勝ちした角田選手(青い道着)

 ◇ポジティブサイコロジー理論

 この5月、柔道の世界選手権女子48キロ級で優勝した角田夏実選手は、これまで肝心なところで幾度となく敗退してしまい、オリンピック出場を逃してきました。ところが今回は、ここぞという場面で力を発揮。インタビューで「自分はもともとネガティブなたち。ポジティブになろうとするのは大変だから、マイナスの考え方を減らしていくことを考えた」と語っていました。

 マイナスを減らすことでプラスの部分を増やす。家計で収入を増やすのは大変なので、無駄な支出を抑えてゆとりをつくっていくのと同じですね。これは「ポジティブサイコロジー心理学」の基本的な考え方です。ネガティブな要素を減らせば心のゆとりや活気、つまりポジティブな部分が増えます。

 具体的に失敗を引きずらないための方法を整理してみます。

 ステップ1 ネガティブ思考にふた~エネルギー支出をストップ

 失敗と同時に頭をよぎるのは、「自分は駄目」「また次も失敗するかも」「周りから能力がないと思われる」「これで終わり」などの考えでしょう。このマイナス思考が心のエネルギーをすり減らします。こうした思いは次々に浮かぶもので、「自動思考」などと呼ばれています。これをストップします。そして即座に、その思考にふたをするイメージをしてみます。つまり支出をストップするのです。

 ステップ2 いい記憶で上書き

 自分の成功体験や人からの好評価、あるいは温かい励ましを思い出し、失敗の記憶を上書きします。楽しかったり、自己肯定感を持ったりした記憶を呼び起こすことは、「自分は失敗だけをしているわけではない。うまくいき、成功するケースもある」と、気持ちを立て直す効果があります。一度の失敗で「自分はすべて駄目だ」と考える傾向があるので、これを修正します。

 ステップ3 呼吸にフォーカス~肋骨を開く

 失敗すると思わず息が止まり、体がこわばる場合がしばしばあります。身体がこわばると肋骨(ろっこつ)周辺の筋肉がこわばり、深い呼吸が妨げられます。この状態を改善し、体に酸素が十分行き渡るように呼吸をすることが大事です。その早道は肋骨周りのストレッチと深い呼吸です。両腕を上げ、頭の後ろで片方の肘をもう一方の手でつかんで引き寄せ、脇腹を伸ばしてストレッチしながらゆっくり呼吸します。

 肘をつかむのが難しい方は、頭の上で両方の手のひらを天井に向けて組み、肘を真っすぐにして側屈しながら深呼吸します。肋骨周りが緩み、呼吸が深くなるのが実感できるはずです。数回繰り返すと交感神経の緊張がほぐれ、リラックスできて気持ちにゆとりが生まれます。失敗を引きずらない心のゆとりは深い呼吸から生まれます。(了)

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