Dr.純子のメディカルサロン

「自己関連付け」心理のわな
~悪口を言われたと思い込む~

 長野県中野市で起きた立てこもり事件は、海外のメディアでも大きく報道されていました。その事件の引き金が「悪口を言われたと思った」と報じられ、「そんなことで」と衝撃を受けた方も多いようです。事件や背景の詳細はまだ分かっておらず、これから調査が行われるとみられますが、ここでは知っておきたい「思い込み」の心理についてお話ししたいと思います。暴力事件まで発展しなくても、思い込みで起きるトラブルは日常的に発生しています。

(文 海原純子)

一方的に苦情を言い立てる男性(イメージ)

一方的に苦情を言い立てる男性(イメージ)

 実際にあったケースをご紹介します。

 あるショッピングセンターで若いアルバイトの女性店員2人が小声で笑いながら話しているとき、たまたまその前を小太りの中年の男性が通り掛かりました。そして、その女性店員に「自分のことを笑っただろう」と激高したのです。もちろんそんなわけはなく、2人は全く違うことを話していました。男性に「そんなことはない」と謝ったのですが、男性の怒りは収まらず、ついに店長が出てきて謝罪する事態になりました。女性店員の2人は厳重注意となり、その後社内での居心地が悪くなり退職したそうです。

 悪口を言われたと思って相手を暴力で攻撃するまでには至らないものの、「何か言われているのではないか」と不安になったり、ひそひそ声や笑い声が気になったりした経験がある方はかなり多いのではないでしょうか。

 自分のことを言われているわけではないのにすべて自分と関係しているような気になり、否定的な思い込みに陥る心理は「自己関連付け」と言えるでしょう。ほかの人が褒められていると、自分をけなされているように感じるのもこの自己関連付けによるものです。一度思い込みに陥ると自分で気が付くのは難しく、客観的な判断ができなくなるのがこうした思い込みの怖いところです。

 そのリスクと対策を考えます。

 1.自分に不安やコンプレックスがないか点検する
 自信がないことや自分の容姿、能力に対する否定的な思い、あるいは過去に言われた否定的な言葉などがあると、相手の言葉や行動がトリガーとなり思い込みに発展するリスクが高くなります。先に紹介したショッピングセンターの男性の場合も、自分の容姿についてけなされたように感じたと思われます。引け目を感じていたり、苦手なことがあり自分でそれを気にしていたりする場合は、思い込みや被害妄想を起こしやすいと気を付ける必要があるでしょう。

 2.自動思考をストップする
 一度「相手がうわさ話をしている」「悪口を言っている」と思うと次々に嫌なことが思い浮かび、気持ちがいら立ったりうつ状態になったりするスパイラルに陥ります。こうした「自動的に浮かぶ一連の思考」を一度ストップしないと、どんどんエスカレートしてしまいます。こんな場合はすぐに行動を切り替える必要があります。一番手っ取り早いのは、部屋から出て歩いたり走ったり、ストレッチなど体を軽く動かしたりすることだと思います。

 3.自己肯定感を取り戻す
 思い込みや被害妄想に陥るのは自己肯定感が不足しているときです。自分のいいところを見つけるのが苦手で、悪いところや苦手な部分ばかりに目がいく傾向の人がいます。子どもの頃から人と比較されて嫌な思いをしてきた場合や、親や教師から駄目な部分をレッテル貼りされて「できない子」などと言われてきた場合は、どうしても自分の良さを見つけにくくなります。自分で「いい部分を見つけにくい傾向がある」と感じる方は、客観的に自分をもう一度見詰め直し、自分のいい部分を見つけるようにしてみてください。


 不安や自己肯定感が低いときはどうしても自己関連付けの被害妄想が起こりやすくなるものです。思い込みから被害妄想に発展して相手とのコミュニケーションを台無しにしないために、自分の心の中の不安に気が付き、自動思考をストップすることが大事と言えます。(了)

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