錠剤嚥下障害
~まず薬剤師に相談を(昭和大学 倉田なおみ客員教授)~
嚥下(えんげ)機能の低下や口の中の乾燥といった理由から、錠剤やカプセル剤が飲みにくくなる「錠剤嚥下障害」。飲みやすくするため、患者や家族、介護スタッフらが薬を細かく砕くケースがあるが、「薬が十分に効かない、思わぬ副作用が出るなどの事態につながる危険があります」と昭和大学薬学部(東京都品川区)社会健康薬学講座社会薬学部門の倉田なおみ客員教授は指摘する。
内核錠型の徐放性製剤の例
◇粉砕で意識レベル低下
錠剤やカプセル剤の服用は、薬(固形物)と液体を同時に飲み込む処理をする必要があるため、嚥下の難易度が高いという。加齢に伴う機能低下などだけでなく、服用に不慣れという点も薬の嚥下を難しくする。「食べ物の嚥下に問題がなくても、薬を飲む機会の少ない20歳代の人にも錠剤嚥下障害は見られます」
特に、粒が大きい錠剤や粘膜に張り付きやすいカプセル剤は、口の中や喉の上部(咽頭)に残りやすい。「口の中や咽頭・食道に薬が長時間残ると、粘膜を傷つけたり潰瘍ができたりする恐れがあります」
ただ、飲みやすいからと薬を安易に粉砕するのは危険だ。高血圧治療薬やがんの痛みを抑える麻薬成分を含む薬を粉砕投与され、急な血圧低下、意識レベルと呼吸状況の悪化などが起きた事例が報告されている。
◇薬の設計は緻密
こうした事故が起こる理由として、倉田客員教授は薬が緻密に製造されている点を挙げる。例えば錠剤の形態には、錠剤を別の錠剤で覆うように成形した「内核錠」などがある。
一部の抗がん剤などは内核錠だ。抗がん剤はがん以外の健康な細胞にもダメージを与えるため通常介護者は素手で錠剤を触れないが、触っても問題のない成分で外側を包むことで、薬を手に取って服用の介助ができるようになる。
また、「徐放性製剤」といって、1日の服薬回数を減らしたり副作用を軽減したりする目的で、体内で有効成分が放出される部位や速度を調整したタイプの錠剤もある。内核錠型の徐放性製剤は粉砕してしまうと、血液中の薬の濃度が一気に高くなって生命に関わる副作用を生じることがあり、危険だ。
「飲みにくいときは、薬剤師に相談を。口の中で壊れる口腔(こうくう)内崩壊錠などへの変更や、服薬補助ゼリーの紹介といった対応をしてくれます」。薬に関する困り事があれば、患者からも声を上げて「薬剤師と治療に当たる協力関係を築いてほしい」と倉田客員教授は述べている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2024/05/14 05:00)
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