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歯磨きで仕事はかどる?
~自律神経に作用、気持ち前向きに~

 歯磨きは口腔(こうくう)ケアの基本で、虫歯や歯周病の予防には欠かせない。一方で、自律神経のバランスを整え、前向きな心理状態をもたらす効果があるという。パフォーマンス向上も期待できるとされ、昼休みに磨けば午後の仕事の能率が上がるかもしれない。

 ◇口内刺激が効果

 厚生労働省が実施した2022年歯科疾患実態調査によると、1日に2回以上歯を磨く人は79.2%。半世紀以上前の1969年には16.9%にすぎなかったが、衛生意識の高まりなどから87年調査で半数を超え、その後も一貫して増加している。磨くとすっきりし、心地良さが得られることが経験的に知られている。

 家庭用品大手のライオンは、歯磨き(ブラッシング)が心や体にどう作用するかを検証するため、成人男女20人の参加を得て試験研究を行った。ポイントと位置付けたのは、口腔内への「触覚刺激」が自律神経に及ぼす影響だ。その結果、ブラッシングによる歯茎や頬の内側などへの刺激が交感神経の活動を弱め、リラックス効果が得られることが分かった。心理状態に関しては、活性度、快適度、覚醒度が上がり、簡単な計算問題を課したところ回答数が増えたとしている。

心理状態の評価結果

心理状態の評価結果

 杏林大学の古賀良彦名誉教授は「ブラッシングを行うことで副交感神経が優位になり、良い安静状態が得られた」と分析。単に落ち着いているだけだったり、ぐっすり眠ったりといった意味でのリラックスではなく、前向きな心理状態への変化が見られたことを評価する。その上で「まさに心身のリフレッシュ感がもたらされ、頭の回転も良くなった」と話す。

 人は視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感を通じて外界から情報を取り入れている。口の中は感覚が非常に鋭敏で、大脳皮質の中の比較的広い領域が関わるとされる。「人にとってはそれだけ重要な場所」(古賀氏)で、口内を触って刺激すると、自律神経を介して体や気持ちの働きを巧みに調節してくれるという。

古賀良彦名誉教授

古賀良彦名誉教授

 ◇ストレス対処に有効

 同氏が歯磨きに着目するのは、ストレス軽減策として有効と考えられるからだ。日々の生活は疲労、騒音、家族の介護、近隣との付き合い、職場の悩みなど、ストレス要因に事欠かない。うまく対処できないでいるとストレスが蓄積され、心身にさまざまな症状が出てしまう恐れがある。

 体にはそうした事態に陥るのを防ぐ機能が備わっている。その一つが交感神経と副交感神経から成る自律神経だ。歯磨きによって自律神経が良い状態になれば、ストレスへの対応力も強まることになる。今回の研究を踏まえ、古賀氏は「従来、ブラッシングは口腔衛生目的で朝と晩に行うことが多かった。昼食後にもブラッシングを行えば、自律神経のバランスが整って午前中に生じたストレスが緩和され、仕事の生産性が向上する可能性がある」とコメントしている。

 上述の22年厚労省調査では、歯磨きを1日3回以上する人は28.4%と3割に満たない。ビジネスパーソンに限ると、ライオンの調査では男性で3割台、女性で4割台と比率はやや高まるものの、まだ半数に届いていない。同社オーラルヘルス開発部の武藤美穂さんは「口の中をブラッシングで刺激するとパフォーマンスアップにつながることが見えてきた。歯磨きの新たな側面を伝え、ウェルビーイングな世の中を実現していきたい」と、昼の歯磨きの浸透に意欲を見せている。(平満)

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