こちら診察室 歯の健康と治療

知覚過敏症
~歯の内部が露出、刺激で痛み~ 【第1回】

 最近よく取り沙汰される健康寿命。元気で長生きするには、そしゃく機能の維持がポイントの一つです。虫歯や歯周病にならないよう、普段から口内のケアを心掛ける必要があります。政府も「国民皆歯科健診」の導入に向けて動きだしている折、歯の疾病予防と治療について考えてみましょう。初回は知覚過敏症を取り上げます。

図1

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 ◇歯の構造

 歯は図1に示すように、まず口の中で見える部分の一番外側に「エナメル質」という硬い組織(図の白い部分)があり、歯を守る役目をしています。骨に埋まっている根の部分の周りには薄い「セメント質」、その内側には「象牙質」(図の薄いオレンジ色の部分)があり、その表面には極めて小さな穴が無数に開いていて、これが歯の中にある「神経(歯髄)」に管(象牙細管)となって通じています。管の中にはセンサーとも言うべき神経の細胞の突起が入っています。

 象牙質が何らかの原因で直接、外界からの刺激を受けると、センサーを通じて歯の神経が危険信号を察知し、歯に痛みが生じます。刺激の原因は虫歯の場合もありますが、虫歯でなくても歯の表面が欠けたりして象牙質が露出すれば痛みが生じてきます。これが知覚過敏症です。

 ◇原因

 ある程度進行した歯周病を患うと、治療後に歯茎の位置が下がって歯が露出し、知覚過敏を起こすことがあります。炎症が起こっている際は見かけ上、正常の位置だった歯茎が治療によって炎症が治まり引き締まった結果、歯の根の部分が露出。象牙質が外部にさらされて直接、刺激を受けるようになり、冷たいものが染みたり、歯ブラシなどで引っかくと痛みが生じたりするのです。

 歯茎が健康でも、力任せに横方向に磨いたり、歯磨き剤に配合されている研磨材が知らず知らずのうちに歯を削っていたりすることもあり、これが原因となるケースもあります。また最近では、かみ合わせの不具合や強い食い縛りなどにより、局所的に不用意な力が加わることによっても歯の欠損が生じると分かってきました。多くの場合、歯と歯茎の境目(歯頚部)辺りに生じやすく、歯頚部知覚過敏症とも言われています(図2)。

図2

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 ◇虫歯との見分け方

 虫歯の場合は、歯の色が茶褐色になっていて、どこかに穴が開いていることが多く、痛みも一過性ではないのが一般的です。冷たいものが接触してズキンとした痛みを感じ、そのまま鈍痛が数秒から数十秒間持続するようなら、虫歯によって歯の神経に炎症が起きている可能性があります。また、熱いものを食べたときにズキズキと持続的な痛みが生じれば、すでに歯の神経に炎症が起きています。一方、冷たいものが染みても、一瞬で回復すれば知覚過敏症です。

 ◇治療法

 前述のように、知覚過敏が起こる原因は象牙質の露出ですから、露出している部分をふさげば症状は消えます。治療法は種々ありますが、まずは歯ブラシを正しい方法で使用することが重要です。歯科医院でしっかりと指導を受けましょう。それによって生体の防御機能が働き、自然に歯の中の壁が厚くなったり、象牙細管がふさがれたりします。

 硝酸カリウムやフッ化ナトリウムなど、象牙細管の封鎖を促進する薬剤が配合された市販の歯磨き剤を使用するのも有効です。これを柔らかめの歯ブラシに付けて、力を入れずに染みている歯に対して薬を塗りこむような要領で、毎日丁寧に磨きます。場合によっては歯間ブラシに付け、歯の間も丁寧に磨きましょう。

 知覚過敏症の症状は、その日の体調によっても左右されます。軽度の場合は自然治癒もあり得ますが、放置しておくと痛みが悪化するケースもあります。各種薬剤からレーザー照射まで、種々の治療法が可能ですので、歯科医師にご相談ください。

 なお、放置してしまった場合、歯の中の神経に炎症が起こることがあります。炎症は生体の防御機能ですので、何か生体内に悪影響を及ぼすものが侵入してきている証しとなります。こうなると、歯の神経を保護したり抜いたりする処置、すなわち「歯内療法」と言われる専門性の高い処置が必要となってきます。今回のシリーズでは、この歯内療法処置について詳しく説明していきます。(了)

古澤成博教授

古澤成博教授


古澤成博(ふるさわ・まさひろ)
 東京歯科大学教授。
 1983年東京歯科大学卒業、87年同大大学院歯学研究科修了。同大歯科保存学第一講座助手、口腔健康臨床科学講座准教授などを経て2013年4月から同大歯内療法学講座主任教授。16年6月から水道橋病院保存科部長を兼務し、19年6月からは副病院長も務める。
 日本歯科保存学会専門医・指導医、日本歯内療法学会専門医・指導医、日本顕微鏡歯科学会認定医。これら3学会や日本総合歯科学会の理事を歴任。

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