介護リスク高める骨粗しょう症
~10代から予防、中高年は検診を~
年を重ねるにつれ、骨粗しょう症になる恐れが強まる。体の衰えは誰でも避けられないが、骨がもろくなれば骨折の危険性が増し、ひいては要介護に陥りかねない。骨を丈夫にするために栄養バランスの良い食事と適度な運動を心掛けるとともに、中高年に差し掛かったら検診を受け、自分の骨の状態を把握しておきたい。
高齢者は体の衰えから転倒・骨折の危険性が増す(イメージ画像)
◇女性の6人に1人
骨粗しょう症の有病者は国内で男性が約300万人、女性は約980万人と言われる。女性ではおよそ6人に1人に上り、高齢になるほど有病率は高い。九段坂病院(東京)の大谷和之診療部長兼整形外科部長は「70代以上では女性の半分以上が骨粗しょう症と考えていい」と話す。
65歳以上の高齢者の割合は約30%。少子高齢化の影響などでこの先も比率は上がり、2070年には40%近くに達すると予測されている。「このあたりの人たちが予備軍になる」(大谷医師)とされ、骨粗しょう症を患う人の割合も上昇するとみられる。
◇骨密度、閉経後に急低下
骨の密度は成長期に高まり、おおむね18~20歳でピークを迎える。その後はほぼ横ばいで推移し、加齢の影響などにより50歳前後から低下していく。
女性の場合は閉経を機に急激に落ち込む。原因は女性ホルモンの一種であるエストロゲンの減少だ。エストロゲンには骨の形成を促すとともに古くなった骨が壊れるのを抑える作用があり、分泌量の減少は骨の強度低下に直結する。60代以降の有病率が目に見えて高くなるのはこのためで、軌を一にして骨折する人も増える。
骨粗しょう症について説明する大谷和之医師
◇屋内で転倒・骨折多く
骨折の直接の原因は主として転倒だ。消費者庁によると、転倒場所としては自宅が半数近くを占める。「介護施設なども含めると、およそ6割以上が屋内」(同医師)で、浴室・脱衣所、庭・駐車場、寝室、玄関、階段などが多い。いずれも普段からよく出入りする所で、ふとした拍子に転んでしまうようだ。部位では手首(橈骨遠位端〈とうこつえんいたん〉骨折)、太もも(大腿骨〈だいたいこつ〉近位部骨折)、背骨(椎体骨折=圧迫骨折)が代表例で、このうち背骨は重い物を持ち上げただけで、あるいは特に誘因がなくても折れるケースがある。
◇腰曲がるとQOL悪化
大谷医師によれば、骨粗しょう症に起因する骨折の中では椎体骨折が最も多い。この影響で腰が曲がってしまうと、①腰痛が出たり、長い距離の歩行が困難になったりする②食べた物が胃から食道に逆流し、胸焼けなどを感じる③見た目を気にして人前に出るのを嫌い、引きこもりや老人性うつになる―など、生活の質(QOL)の大幅な低下が懸念される。しかも「背骨が変形した高齢女性は入院リスクが高く、生存率が低いというデータまである」という。
さらに危惧されるのは、骨折によって要介護状態になってしまう事態だ。厚生労働省の調査では、介護が必要となった原因の1~3位は認知症、脳卒中、骨折・転倒。大谷医師は「認知症と脳卒中は予防が難しく、唯一予防できるのは骨折。骨折しないようにすれば、将来、要介護になる可能性を低くできる」と説明する。
転倒・骨折予防策などを紹介する岡原伸太郎医師
発症を予防するにはどうしたらいいか。基本的な対策は食事と運動だ。食事ではカルシウムをしっかり取るようにする。牛乳・乳製品、小魚、大豆、緑黄色野菜などに多く含まれている。ビタミンDやビタミンK、タンパク質も大切で、魚、キノコ類、納豆、緑色野菜、肉、卵などで摂取できる。ビタミンDは紫外線を浴びると体内で合成されるので、短時間の日光浴も効果がある。
運動に関しては、ウオーキング、スクワット、片脚立ち、かかと上げ、腹筋、背筋、背中のストレッチなどが推奨されている。適度な刺激・負荷がかかる動きにより、筋肉や骨、体幹が強化される。これらは転倒防止にもつながる。
J&J日本法人が披露したエクササイズ
職場でも予防を支援する動きが出ている。ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)日本法人グループは11月、勤務中の心身リフレッシュのために行うメニューの一つに、足踏み、スクワット、机・テーブルを使った腕立て伏せなどのエクササイズを加える。同グループの岡原伸太郎・統括産業医は「仕事の場でも高齢化が進んでいる。転倒した場合にただの打撲で済まず、骨折する人が多くなっている」と、予防の重要性を強調する。
◇若年時に心掛けたい「骨の貯金」
骨粗しょう症を防げるかどうかは、骨量が増える10代が一つのポイントとなる。この時期にできるだけ積み増しておけば、ピークを過ぎて減少に転じても一定の水準を維持できる。いわば、老後のための「骨の貯金」だ。ただ、中高生らに遠い将来に備えた自主的な行動を期待するのは難しいかもしれず、保護者らの意識・姿勢が重要となる。
中高年は喫煙や過度な飲酒を控え、健康的な生活を送るよう努めたい。大谷医師はこれに加え、「一度骨密度を測って(平均的な水準と比べて)自分がどのあたりにいるかを見極め、必要があれば早めに治療する方がいい」と、適切な時期の検診を呼び掛ける。検診に先立ち、世界保健機関(WHO)が作成した骨折危険度の判定法を利用するのも一案で、向こう10年間に骨粗しょう症によって骨折する確率が簡単に予測できる。
骨粗しょう症の治療は薬の内服と注射が主要な方法となる。エストロゲン減少の悪影響を軽減する薬剤などが投与される。「治療すれば骨は増える。そんなに悲観する必要はない」(大谷医師)という。(平満)
(2024/11/05 05:00)
【関連記事】