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フジテレビのガバナンス不足が投資家の信頼失う理由
~米投資ファンドが指摘する「重大な欠陥」~

 タレントの中居正広さんが週刊誌で女性とのトラブルを報じられた問題は、フジテレビに大きな波紋を投げ掛けています。同社を傘下に持つフジ・メディア・ホールディングス(以下、フジMH)の株主である米投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」は、信頼回復を求める書簡を送付し、フジMHの対応について「コーポレートガバナンスに重大な欠陥がある」と厳しく指摘しました。さらに、一部スポンサーがテレビCMを差し替える動きも広がり、問題の深刻さを浮き彫りにしています。

 フジテレビの問題は単なる芸能トラブルにとどまらず、組織全体のガバナンスやハラスメント対応の不備を象徴しています。特に、日本企業におけるセクハラやパワハラの問題は長年見過ごされてきたと言わざるを得ません。産業医として現場を見ている立場からも、これらの課題に体系的に取り組む企業はまだ少ないと感じています。

(文 海原純子)


フジ・メディア・ホールディングスの本社=1月17日、東京都港区

フジ・メディア・ホールディングスの本社=1月17日、東京都港区

 ◇CCLAが示すガバナンスの未来像

 英国最大規模の投資運用機関であるCCLAは、企業が持続可能な経営を実現するために、メンタルヘルスを含む組織全体の健康を重視する指標「Corporate Mental Health Benchmark」を2022年、開発しました。CCLAは毎年10月、この基準を使い、グローバル上場企業の株価指数(MSCI ACWI)に組み込まれた従業員1万人以上のトップ100社の評価を発表しています。これは、投資家が企業の価値を判断する新たな基準として注目されています。

 このベンチマークでは、以下の観点が重要な評価軸として挙げられています。

 • CEOによる透明性のある情報発信

 • 従業員だけでなく企業に関わる人や環境への貢献

 • 職場環境の整備(特にラインケア)

 • ハラスメント防止と賃金やジェンダー公平性の確保


トヨタ自動車はメンタルヘルス戦略が評価された

トヨタ自動車はメンタルヘルス戦略が評価された

 2023年のCCLA評価(5段階評価)では、トヨタ自動車が「Tier4」から「Tier3」にランクアップしました。これまで日本企業は欧米企業に比べて低評価が目立っていましたが、トヨタはCEO主導によるメンタルヘルス戦略の明確化や、社員の健康を重視した職場環境づくりの推進が評価されました。特に、ハラスメント防止やジェンダー格差是正に向けた取り組みを強化したことで、前年度よりも評価を上げることに成功しています。この成果は、日本企業がCCLAの基準に照らし合わせて課題を明確化し、改善を図る重要性を示す好例と言えるでしょう。トヨタは2024年もTier3を獲得しています。ちなみに同年はTier1が英金融大手HSBC、Tier2がスイス製薬大手ロシュ、英石油大手シェルとなっています。

 2024年の報告によれば、メンタルヘルスに関する情報発信の透明性や、ジェンダー平等への取り組みが不十分な企業が大半であることが指摘されています。これらの課題を克服するには、具体的な戦略を立案し、迅速に実行する必要があります。

記者会見するフジテレビの港浩一社長=1月17日、東京都港区

記者会見するフジテレビの港浩一社長=1月17日、東京都港区

 ◇フジテレビ問題が示す警鐘

 今回のフジテレビの問題は、社員のメンタルヘルスに配慮しない組織文化と、情報公開の遅れが投資家からの信頼を損なう結果となったことを示しています。CCLAが掲げる基準を適用すれば、フジテレビの課題は明確です。同社が迅速かつ透明性のある対応を取らない限り、さらなる批判やスポンサーの離脱を招く可能性があります。

 企業が国際的な競争力を高め、投資家からの信頼を取り戻すには、CCLAのような基準を参考に、持続可能で透明性のある経営を実現する必要があります。(了)

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