2025/03/21 05:00
医師への苦情が断とつに多い医療相談 患者とのすれ違いはなぜ起きる?
医療の質と安全を確保して将来にわたって持続可能な医療を実現する…
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COMLの理事のメンバー
◇相談の多くが医師に対する苦情
河野 つまり大半は医師に対する苦情ということでしょうか?
山口 電話相談では医師への苦情や不満が突出して多く、看護師やその他の医療者への不満の7倍です。ただ、話をよく聞いてみると、全て医師の対応が良くないかというとそうではなく、患者の期待値が医師に一極集中している裏返しなのです。
例えば、薬の情報やリハビリ、日常生活の相談についても医師への不満となっています。では、なぜそうなるのか。医療は通常、多職種協働のチームで行っていますが、医師以外の医療者が自分の職種の専門性や役割を患者や家族に積極的に説明していません。一番身近な看護師でさえ患者にとっては身の回りの世話をしてくれる人程度の認識です。治療に当たってはすべて医師の仕事として期待され、医師以外の医療者が対応すると「なぜ医師ではないのか」と苦情になるわけです。患者に「この看護師は特定行為の研修を終えた専門職を持っています」というように専門性を説明し、医師とシェアして役割を果たすことを患者に伝えるだけで納得します。まずは患者の医師への期待を他職種にも分散させることが必要ではないかと考えます。
河野恵美子医師
◇海外では薬剤師が処方を行うことも
河野 確かに、医師がカバーする仕事が広すぎることにも問題があり、薬の問い合わせにも医師が対応しています。
山口 明らかに日本は医師の業務が多過ぎますよね。薬の知識だけ見ると、薬剤師の方が医師よりも詳しいとしても処方できるわけではありません。米国やカナダでは州によっては一定の条件下で薬剤師が処方や予防接種を行うことが可能です。海外では看護師も日本と比べると、もっと幅広い医療行為の対応が可能です。
河野 35年ほど前は、看護学生も採血をさせていたような気がします。
山口 それがいつの頃からか患者側の批判を怖がってやらせなくなり、現在は実習中の医学生が患者の車椅子に手が触れるだけでも怒られると聞いてびっくりしました。患者が賢くなるというのは大切ですが、医療過誤や医療事故に過剰に反応されるようになり、医療者側としてはリスクのある医療行為を避けるようになってきています。そういう意味では果たして医療者と患者が理解し合って協働で医療の質と安全を高めていくという方向に向かっているのか疑問に感じます。
◇働き方改革による患者への影響
河野 医療者の過酷な労働環境はニュースで頻繁に報じられていますが、2024年4月から始まった医師の働き方改革について、患者さんや一般の方はどのように受け止めているのでしょうか。
山口 電話相談で患者が医師の働き方を問題にすることはまずありません。もしかしたら勤怠管理されていない医療者が頑張っていることで、患者への影響が少ないのかもしれません。患者はご自身の病気のことには関心があっても、医療者の働き方まで考えられる人はわずかなのではというのが正直なところです。
ただ、コロナ禍で患者の面会制限が始まり、多くの施設では家族に対する医師からの説明が電話になったのですが、現在も手術時の家族の承諾を得るのに電話の事後報告で済まされるようになったという相談は聞いています。働き方改革によるものなのかは分かりませんが、以前ほど説明が丁寧に行われなくなったという相談はたくさん来ています。例えば、手術直前に一方的に説明され、手術中に「足を切断する必要が出てきたので了承してください」と言われ、その数時間後に「切断した片足を取りに来て火葬してほしい」とすべて事後報告されたという訴えには驚きました。別の例では、入院患者さんの熱が38度以上出たら連絡すると言われ、家族には2カ月以上連絡がないというように、明らかに連絡や説明は減ったようです。
◇大病院志向は減少したが…
河野 患者の家族にとっては実際に顔を見て自分たちの思いも受け止めてもらいたいということですよね。
山口 勤務医の負担を軽減させる政策としては、大病院に患者が集中し過ぎないよう、200床以上の病院に紹介状を持たずに初診で受診すると、病院が定めた特別料金がかかるようになりました。30年近く前に始まった制度なので、地域のかかりつけ医に診てもらってから必要に応じて大病院を紹介してもらう受診行動は浸透し、国民の大病院志向は減少傾向にあります。ただ、制度の背景までを理解している人はごくわずかだと思います。
(2025/03/21 05:00)
2025/03/21 05:00
医師への苦情が断とつに多い医療相談 患者とのすれ違いはなぜ起きる?
医療の質と安全を確保して将来にわたって持続可能な医療を実現する…