現代社会にメス~外科医が識者に問う

医師への苦情が断とつに多い医療相談
患者とのすれ違いはなぜ起きる?

第20回ヘルシー・ソサイエティ賞を受賞する(2024年)

第20回ヘルシー・ソサイエティ賞を受賞する(2024年)

◇このままでは破綻

 河野 このところ高額療養費制度の見直しを巡り、議論が活発化しています。患者さんからの不安な声も多いのではないでしょうか?

 山口 高額療養費制度は53年も前から患者の経済的負担を支えてくれた世界中で日本だけのありがたい制度です。私自身、高額療養費制度の恩恵にあずかりながら、この制度がいつまで続けられるのか危惧しています。患者にとってなくてはならないものとなっている高額療養費制度は高齢化、医療の高度化、薬剤の高額化により、支給金額は3兆円に膨れ上がっています。このまま増え続けるといつかは破綻し、いきなり治療が続けられなくなる人が続出するでしょう。まずはご自身の医療費が自己負担額だけでなく全体でいくらかかっているのかを自覚することが大切です。金額の大きさに驚かれる人も多いと思います。有効な治療なのか、本当に必要なのか、医師任せにすることなく、患者自身がしっかりと調べて適切に選択し意思表示するだけでも、医療費は大幅に削減できます。

 誰もが少しでも負担を減らしたいというのは分かりますが、唯一無二の日本の医療制度を持続可能にするために何ができるのか、国民一人一人が個人としてではなく社会全体の視点で真剣に考える時期に来ています。

 ◇過度な期待せず限界を知る

 私はこの35年間、一患者として医療の課題や不確実性に日々直面してきました。それをいかに一般の方に知ってもらうかを考えながら活動を続けています。活動を通じて分かったことは、医療に過度な期待をしないことです。かといって、決してあきらめることはしません。医療の力を借りながら取捨選択をすることで多くの人は幸せになれます。後悔することなく、冷静に医療が受けられるように医療の現状や限界をしっかり伝えていきたいと思っています。

聞き手・企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学 医師)、文・構成:稲垣麻里子

 山口育子(やまぐち・いくこ) 65年大阪市生まれ。25歳の時に卵巣がんを発症し自らの患者体験から患者の自立と主体的な医療への参加の必要性を痛感する。91年にCOMLと出会い、活動趣旨に共感し、92年スタッフとして、相談、編集、渉外などを担当。02年4月に法人化したNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの専務理事兼事務局長を経て、11年8月理事長に就任。社会保障審議会医療部会をはじめとする数多くの審議会や検討会の委員を歴任。

 活動内容は会報誌「COML」の発行、電話相談、ミニセミナー「患者塾」、SPグループ(摸擬患者)、病院探検隊、患者と医療者のコミュニケーション講座、医療をささえる市民養成講座、医療関係会議の一般委員養成講座など、患者と医療者のよりよいコミュニケーションを構築するための活動を続けている。25年2月からクラウドファンディングを始め、多くの支援を集めた。https://readyfor.jp/projects/coml2025

 河野恵美子(こうの・えみこ) 大阪医科薬科大学一般・消化器外科医師。01年宮崎大学を卒業。06年に出産し、1年3カ月の専業主婦を経て復帰。11年「外科医の手プロジェクト」を立ち上げ手術器具の研究を開始、15年に2人の女性外科医と消化器外科の女性医師を支援する団体「AEGIS-Women」を設立。20年に内閣府男女共同参画局「令和2年度女性のチャレンジ賞」を受賞。22年「手術執刀経験の男女格差」の論文をJAMA Surgeryに発表。24年に「令和6年度女性のチャレンジ支援賞」「平塚らいてう賞 特別賞」(AEGIS-Women)受賞。パブリックリソース財団「女性リーダー支援基金~一粒の麦~」二期生。厚生労働省医学部生向け労働法教育事業の委員。TEDxNambaにも出演。

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