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「一人酒」はアルコール依存症の要注意サイン=患者への望ましい対応は―成瀬暢也埼玉県立精神医療センター副院長

 ◇再飲酒を責めず、居場所つくって

 成瀬副院長は、アルコール依存症の患者と向き合う場合、「酒をやめさせること」ばかりにとらわれるべきではないという。「断酒するか、飲酒量を減らすのかといった問題は、本人が決めること」と強調する。

 患者がきっぱり「酒をやめたい」と言えばそれを支援する。「やめる決心はつかないが、問題を起こしたくないので飲酒量を減らす」と言えば、一緒にその目標などを考えていく―。こうした治療の根底にあるのは、薬物などの依存症治療で広まりつつある理念「ハームリダクション(有害事象の軽減)」的な考え。不寛容・厳罰主義を捨て、断酒を強いるのではなく治療を続けることを最優先する発想だ。

 昨年春、同センターがアルコールや薬物などの依存症で通院中の患者103人を対象に実施したアンケートによると、再飲酒・再使用した人の77%は、「もうやめようと思う」と回答。しかし、「家族からそのことを責められると飲もう・使おうと思う」と答えた人も62%に上った。

 「認知行動療法などさまざまな治療をしているが、一番大切なのは率直な話をできる信頼関係づくり」と成瀬副院長。目標を達成しなくても責めることはない。断酒を試みた患者が「飲んでしまった」と告白しても、むしろ「よく話してくれた」と歓迎する姿勢を基本に据える。

 同センターのアルコール・薬物依存症専門治療の外来は名付けて「ようこそ外来」。これも、患者に対して「北風」ではなく、信頼される「太陽」の役割を果たそうとしていることの表れだ。

 「ありのままの自分を受け入れてくれる居場所と仲間があって初めて、酔いを求めることをやめられる」と成瀬副院長。依存症の治療や予防を考えている人がまず、かみしめたい言葉だ。(水口郁雄)



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